脂身が多い部位を網にのせると、脂で身がはぜる。
このとき立ち上る煙の香りがたまらない。
濃厚でジューシー。最初に賞味した赤身とは味が微妙に異なる。

個人的には脂身が好きだ。
牛肉のそれよりもさらりとしていて、くどくなく、しかも甘い匂いなど、まったく気にならない。

1人前では満足できないので、もう1人前追加する。
個体が小さいため、最初の皿と同じ肉は期待できないが、もしあれば、赤身か、脂身かをオーダーすることができる。

漬け物(400円)も頼まなければ、この店に来た甲斐がない。
ぬか漬け、カクテキもあるが、文ちゃんキムチはこたえられない。
あまり辛くなく、さっぱり味が、箸休めにちょうどいい。
キャベツの浅漬けも傑出している。

どうしてこんな単純な料理がこんなに旨いのか、何度食べてもその謎が解けない。
ビールが空になる前に、二皿目を注文してしまうぐらい旨い。
なのに、なぜかメニューには載っていない。

羊肉と野菜で腹が一杯になったら、〆に頼みたい一品がある。
この日はあいにく売り切れだったが、羊肉の味噌煮込み(600円)を注文したい。
肉を何人前平らげたとしても、羊肉の味噌煮込みは別腹。
よそでは絶対に出会えない秀作といっても過言ではない。

羊肉をトロトロに煮込んだこの料理を、そのまま食べるもよし。
ご飯(200円)を一緒に頼み、味噌煮込みをかける。
下品極まりないが、汁だくのおじや風にして食べる。
このとき皿に残った特製ダレをかけると、より深い味わいに変身する。

【店舗情報】ひつじの新町や
東京都江東区古石場1-2-1 新村ビル1F
18:00~22:00
日曜定休 要予約

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。