「才能が宿るのは肉体なのか? 魂なのか?」という深遠なテーマをベースに、高い音楽性と重層的な作劇で“人間モーツァルト”の35年の生涯に迫る、ミュージカル「モーツァルト!」が4月8日から上演される。3年ぶりの公演となる今回は、タイトルロールのウォルフガング・モーツァルト役を山崎育三郎と古川雄大(Wキャスト)、モーツァルトの妻・コンスタンツェ役を木下晴香が続投する。古川に、約3年ぶりに演じるモーツァルト役への思いや意気込みを聞いた。
-2018年の公演に続いての出演となりますが、再演が決まった心境を聞かせてください。
再びこの役を演じられるチャンスを頂けてすごく幸せだなと思いましたし、この3年でさまざまな経験をさせていただいた自分がどこまでできるんだろうという期待も膨らみました。
-モーツァルトというキャラクターの魅力をどこに感じていますか。
音楽家としての成功の裏では、才能=自分の影との戦いだったというモーツァルトの悲劇を描いていますが、素顔は天真らんまんでチャーミングな部分も多い人物だと思います。才能があることはもちろんですが、人を引き付ける魅力も持っています。天才と呼ばれ、音楽には真っすぐに向き合っていますが、それ以外のことには、逆にルーズだったり未熟な面があるところも僕には魅力的に映りました。
-前回の公演から約3年がたち、ご自身では、どのような成長や変化があると思いますか。また、演じ方を変えようと思っていますか。
もちろん、成長したところもあると思います。特に、歌においては、成長している部分もあれば、課題を感じるところもあるので、足りていない部分をどう補うかを考えています。演じ方では、役作りを改めて考え直したときに、勢いをつけるということを意識するようになりました。前回2018年のときは、「天才」をどう演じるかが鍵だと思っていたので、その点をずっと悩んでいたんです。ですが、今回は、「天才」は演じようと思って演じるものではないのではないかと思っています。作品が説明してくれていますし、周りの共演者の方々とのお芝居で作り上げられるのではないかと考え、あえてそこに重きを置かずに演じようと思います。その分、彼が何かを生み出すことへの欲求やエネルギーを爆発させることを意識したいと思っています。
-歌においての成長は、どういった点で感じていますか。
前回は出なかった音が出るようになったり、という音域の変化です。逆に、今まで意識せずとも出ていたところが工夫をしないと出なくなったということもありました。
-それは、この3年間で歌い方を変えるなど、何か理由があってのことですか。
変わったという点でいえば、ミュージカルに出続けていなかったことです。前回公演のときは、ミュージカルへの出演が続いている中でのこの作品でした。今回は、2年ほど空いています。そういう意味で環境の違いはあると思います。ただ、その成長や課題は、それが原因でもない気がします。前回は、頭で考えて、構築して歌を歌っていたんです。そう歌うことが染みついていました。でも、今は、期間が空いたからこそ、それが自然となくなり、染みついていたものがなくなったということなのかもしれません。
-今回も山崎さんとのWキャストになりますが、古川さんらしさについてはどのように考えていますか。
同じ役でもその人の持っている素質で、自然とその役も変わると思うので、あまり自分らしさという点は意識していません。ただ、この作品では、1幕で見せるモーツァルトの明るい空気感と、2幕での悲劇に向かっていく姿を、落差を持って見せた方が魅力的になると思うので、1幕をしっかりと構築しないといけないと感じています。(山崎)育三郎さんは、稽古場でもキラキラしていて明るく、カンパニーのムードメーカーな存在で、特に1幕での空気感は見習うべきものばかりです。僕は、「陰」の方が得意なので、明るさをどう出すかが課題でもあります。先ほども言った、有り余るエネルギーをどう放出するかが、明るさにもつながるのではないかと思って稽古に臨んでいます。
-近年、ドラマを中心に映像作品でも活躍されていますが、映像の仕事と舞台の仕事に対して、それぞれにどんな思いがありますか。
ミュージカルは20代の頃から、みっちりとやらせていただきました。そして、(ミュージカル『エリザベート』の)トートを演じたいという自分の目標にたどり着いたものの、その目標の先には実は果てしなく広い世界が広がっていたことに気付きました。なので、まだまだ頑張らなければいけないと思っています。映像は、僕にとっては「挑戦」です。いろいろな作品に出演させていただき、さまざまな経験をして、その中で何を得て、どんな結果を残せるのだろうと、今、挑んでいるところです。
-では、今後は俳優としてどういった姿を目指していきたいですか。
今は、世の中が大きく動いているときなので、どうしようかな、と(笑)。先が見えない世の中だからこそ、目標はこれだと決めてそこにひたすら向かうよりも、きっとさまざまなことに対応できるように準備はしておいた方がいいのだろうとは思います。なので、何も決めない。求められたものに対して、常に引き出しを増やす努力を続けたいです。
-改めて、本作の魅力や見どころを。
モーツァルトの生涯を描いている中で、彼の影であり、才能の化身でもあるアマデとの闘いや、父と子の葛藤をドラマチックに描いています。モーツァルトは、さまざまな出来事に翻弄(ほんろう)されながら、自分の才能と向き合い、父親に認められようとします。悲劇に直面しても、曲を書き続けていたという彼の一生をすごく魅力的に描いていると思います。そして、その彼の人生に寄り添う楽曲も素晴らしいんです。ストーリーも楽曲もこの作品の魅力です。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「モーツァルト!」は、4月8日~5月6日に都内・帝国劇場ほか、札幌、大阪で上演。
公式サイト https://www.tohostage.com/mozart/