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 今回は、緊急事態宣言の中、細々とではあるが、5月7日の公開にこぎつけた映画を2本紹介する。まずは、“もう一つの世界”に迷い込んだ主人公を描いた『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』。

 高校時代に知り合い結婚したラファエル(フランソワ・シビル)とオリビア(ジョセフィーヌ・ジャピ)。だが、結婚10年目を迎え、SF作家として成功したラファエルと小さなピアノ教室を開くオリビアとの間ではすれ違いが続き、ある日2人は大げんかをする。

 翌朝、目覚めたラファエルは、自分がしがない中学教師で、オリビアが人気ピアニストになった“もう一つの世界”に迷い込んだことを知る、というパラレルワールド話。

 ユーゴ・ジェラン監督は、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)やハロルド・ライミス監督の『恋はデ・ジャブ』(93)、リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム~愛しい時間について~』(13)などを参考にしたという。

 ただ、別世界では妻は自分を知らない。彼女の魅力を再発見して、必死に振り向かせようとする主人公の奮闘ぶりを見せる、という点では、ブレット・ラトナー監督の『天使がくれた時間』(00)、あるいはジャック・フィニイの小説『夢の10セント銀貨』の方が近いかもしれない。

 そうしたアメリカ映画を参考にしたためか、この映画は、フランス映画にありがちな理屈っぽさや皮肉がなく、サラリと見られるところがいい。シューベルト、ショパン、バッハなどのクラシックの引用も効果的に使われていた。

 そして、こうしたパラレルワールド話の肝は、実は主人公の秘密を知る理解者の存在にあるのだが、この映画でも、主役の2人(ジャピがチャーミング!)に加えて、ラファエルの秘密を知っている親友役を演じたバンジャマン・ラベルネがいい味を出している。

 続いて、重層的なクライムサスペンス『ジェントルメン』。

 英ロンドンの暗黒街に、一代で大麻王国を築き上げたミッキー(マシュー・マコノヒー)が、大麻ビジネスの全てを売却して引退することをほのめかす。

 すると、強欲なユダヤ人大富豪(ジェレミー・ストロング)、ゴシップ紙の編集長(エディ・マーサン)、ゲスな私立探偵(ヒュー・グラント)、チャイニーズ・マフィア(ヘンリー・ゴールディング)、下町のチーマーとそのコーチ(コリン・ファレル)、ロシアン・マフィアといった、一癖も二癖もある連中がミッキーに近づき、莫大な利権をめぐって、スリリングな駆け引きを繰り広げる。

 私立探偵がミッキーの右腕のレイ(チャーリー・ハナム)に、映画『ブッシュ=大麻』のシナリオとして事件の裏を語るという趣向が、いささか凝り過ぎているところもあり、最初はちょっと戸惑うが、慣れてくると、二転三転する、先の読めないストーリー展開が面白くなってくる。

 ガイ・リッチーの監督・脚本作で、彼によれば、イギリスとアメリカの階級制度の違いを交わらせて描いたとのこと。欧米では、彼が久しぶりに本領を発揮したという声もあるという。リッチーとクェンティン・タランティーノの類似性が語られることが多いが、今回は重層的なクライムサスペンスという点で、よく似ていると感じた。(田中雄二)