(C)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.

 今回は、公開中の女性監督による2本の映画を紹介しよう。どちらも、男性には考えつかないようなユニークな視点で描かれた映画だ。

原題が重要な意味を持つ『17歳の瞳に映る世界』

 第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作。17歳の高校生のオータム(シドニー・フラニガン)は、ある日妊娠していたことを知る。ところが、彼女の住むペンシルベニアでは、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。それを知った、いとこのスカイラー(タリア・ライダー)が金を工面し、2人は両親の同意がなくても中絶ができるニューヨークへ向かう。

 原題は「Never Rarely Sometimes Always=決してない めったにない 時々 いつも」。これは、オータムが、ニューヨークの診察室でカウンセラーから問診を受けた際の選択肢だが、妊娠に至る経緯や心情がほとんど語られない分、ここでのオータムの答えが重要な意味を持つ。

 そんなこの映画は、ヨーロッパ系の、例えば、ダルデンヌ兄弟監督の映画を思わせるようなドキュメンタリー風の描き方と淡々とした視点で、思春期の女性の心理を描いている。こうした手法は、アメリカ映画としては甚だ珍しいものだ。

 ただ、女性監督のエリザ・ヒットマンは、性的アイデンティティーに悩む青年を描いた『ブルックリンの片隅で』(17)で注目されたし、セクシャリティーの問題を内包した『ムーンライト』(16)のバリー・ジェンキンス監督が製作総指揮に名を連ねていることを考えると、これは、ジェンダーの問題が叫ばれる今の時代に必然的に生まれてきた映画なのだとも思える。

 終始、やるせない思いにとらわれるこの映画の中で、オータムを救うことに献身するスカイラーの存在が唯一の救いとして映る。

変幻自在の脚本とマリガンの怪演が見もの『プロミシング・ヤング・ウーマン』

 タイトル通りに、明るい未来を約束された医学生だったキャシー(キャリー・マリガン)は、友人のレイプ事件によって未来を奪われ、事件の当事者たちへの復讐(ふくしゅう)を企てる。

 監督・脚本は、これがデビュー作となった、女優でもあるエメラルド・フェネル。アカデミー賞の脚本賞を受賞したことからも分かるように、前半はシュールなブラックコメディー、中盤はラブロマンス、後半はサイコミステリーと、変幻自在の展開を見せる。

 その中で、時にはかわいく、時には哀れを誘い、時にはグロテスクに映るなど、さまざまな顔を披露するマリガンの怪演が目を引く。

 また、復讐の前段として、キャシーが、女性を性欲のはけ口としか思わない男たちに色仕掛けで近づき、制裁を加えるさまが描かれるが、これを見ながら、同じく、女であることを武器にした復讐劇である山本周五郎の『五辨の椿』のことを思い出した。

 女性の立場を主張する映画に進んで出演し、自らプロデュースもしているマーゴット・ロビーが、この映画の製作者としても名を連ねているのを見て、なるほどと思った。(田中雄二)