山田杏奈(ST:中井彩乃/HM:菅長ふみ(Lila Management))と芋生悠(ST:koji oyamada / 小山田孝司/HM:塩山千明)

 成績優秀で性格は活発、クラスでも人気者の高校生・木村愛は、寡黙な同級生・西村たとえ(作間龍斗)に片思い。だがある日、愛はたとえに秘密の恋人がいることを知る。その相手とは、糖尿病を抱えた目立たない女子生徒・新藤美雪だった。2人の関係に衝撃を受けた愛は、たとえへの思いを隠したまま、美雪に接近するが…。10月22日から全国公開される『ひらいて』は、芥川賞作家・綿矢りさの同名小説の映画化。本作で複雑な関係に陥っていく主人公・愛役の山田杏奈と美雪役の芋生悠に、撮影の舞台裏を聞いた。

-映画を拝見して、言葉にならない思春期の微妙な感情を見事に表現した作品だと思いました。その中で、愛は最初、恋敵に対する興味から美雪に接近しますが、次第に別の感情が芽生えていきます。お二人はそれぞれ、どんなふうに役を捉えていましたか。

山田 私は台本を読んだときも、現場で演じているときも、監督に「分からないです」とたくさん言っていたんです(笑)。正直なところ、今でもこの2人の関係を言葉で表すのは難しいと思っていて…。ただ、美雪との関係の中で、愛の心が開いていくのは事実なので、入り口は「たとえの好きな人だから」ということだったとしても、愛自身は美雪にほぐされて、ほどけていく…。多分、そういう関係だったんじゃないかなと。

芋生 美雪は自分を愛することができ、人にも愛を与えることができる人だと思っていました。ある意味、達観しているような女の子だなと。ただ、病気を抱えているので、達観しているだけでなく、「どこにぶつけていいのか、分からない」みたいないら立ちや迷う気持ちも理解できる。だからこそ、愛を受け入れていくんだろうなと。

-山田さんは愛のことが「分からない」とのことですが、芋生さんはいかがでしたか。

芋生 私は(原作の)小説を読んだとき、自分自身が愛に近いと感じて、愛の方に共感したんです。むしろ、美雪の方が分からなくて、「この子すごいな。かなわない。なんだろう?」と思ったぐらいで。ただ、撮影に入る直前、コロナ禍で人と会わず家にこもっていたとき、料理をしたり、掃除をしたり、自分で自分を満たす方法を学んでいく中で、だんだん美雪の気持ちが分かってきました。

-そんなお二人が、愛と美雪を演じているのが面白いですね。ところで、山田さんは「分からない」ままやっていて不安はありませんでしたか。

山田 「分からない」というのは、考えに考えた末、「分からなかった」ということで、「どう考えても、愛自身も整理できない感情で動いている」と思ったんです。それを監督に伝えたところ、「いや、でも…」という感じで、また考えさせられる、みたいなことが現場中、修行のように続きました。ただ、私は今まで全部理解して演じるやり方しかしてこなかったので、少しでも分からないところが出てくると、「えっ?」と戸惑ってしまって。だから、「元になる感情は分かるけど、私はそういう行動はできない。でも、なぜ愛は行動できるんだろう?」と、ずっと考えていました。監督も「それでも、分からないままやってほしい」とおっしゃっていて。

芋生 愛自身の迷いと杏奈ちゃんの迷いがリンクして、それがきちんと成り立っていたんですよね。監督が一生懸命「愛ちゃんのことを分かって」というのが、かえっていいストレスになっていたのかなと。すごく苦しそうだけど、その全てがこの作品を作るためのものだったのかな、というふうに私は見ていました。

-山田さんは監督といろいろと話をしたようですが、芋生さんは監督とは?

芋生 現場中、いろいろ話しましたが、美雪のことより、とにかく愛ちゃんの話が多かったです。「愛ちゃんは今こうだから、受け止めてほしい」みたいな感じで。その点、美雪はキャッチャータイプというか、「大丈夫、受け止めるよ。来い!」みたいな感じだったので、結構楽しかったです(笑)。私自身についても、監督から最初に「美雪だと思ったから」という話を聞き、「信頼されている」と感じたので、「監督を信頼して挑みたい」と思っていましたし。

-首藤凜監督は高校生のときに原作小説と出会い、長編初監督として10年越しで映画化を実現させた念願の作品ということで、愛に対する思い入れはかなり強かったようですね。山田さんはそういう監督の思いをどう受け止めましたか。

山田 「この作品を撮るために、監督になりました」と聞いた瞬間は、正直なところ、「どうしよう?」と思いました(笑)。でも、逆に、愛を一番分かっている人がすぐそばにいるので、多少の怖さはありつつも、すごく心強かったです。しかも、監督の中に「こうしてほしい」という愛があったはずなのに、それを口に出さず、私と話しながら、その場で生まれるものも含め、私から出てくるもので進めてくださったんです。本当は、「こうしてほしい」と言えば簡単だったんでしょうけど。だから、私は「これでいいのかな?」と悩みながらも、現場ではできることを精いっぱいやることを心掛けました。

-劇中では、迷いなく、自信たっぷりに演じているように見えますね。

山田 振る舞いから得る印象も大きいので、動き方もちゃんとしなきゃ、と思っていました。愛は一見、思うままに行動しているように見えて、実際は周りの目をすごく気にしている。でも、それが見た目には全く表れない。そこが面白いと思ったので、振る舞い方には気をつけて、“まばたきをしない”とか“大きく動く”とか、すごく考えました。

-お話を伺っていると、お二人はまさに愛と美雪そのものだったような気がします。そうやって映画が完成した今の手応えは?

山田 完成した映画を最初に見るときは、いつも冷静には見られないので、完全に客観的に見られたわけではありませんが、撮影から時間が空いたおかげで、「思っていたより、ちゃんと愛だな」、「愛、面白いな」と初めて思えました。

-「分からない」と言っていた点は解消されましたか。

山田 でも、「分からない」のが面白いところかもしれませんよね。言語化できない衝動性とかいら立ちとか、ピリピリした感じが伝わってきますし。見る方それぞれに受け取り方があると思うので、「こういう子」というはっきりしたものはなくてもいいんじゃないかなと。

-確かにそうかもしれませんね。芋生さんはいかがでしょうか。

芋生 「伝えたかったことが、ちゃんと伝わる作品になってよかった」とほっとしました。監督も多分、すごく不安だったと思うし、この作品に懸ける熱量みたいなものを感じていたこともあり、私も試写を見るまでは不安だったので。受け取り方は人によって違うと思いますが、私は「自分をちゃんと愛せるようになってほしい。自分を愛せるようになれば、他の人も愛せるようになり、どんどん愛が広がっていく」というものがちゃんと込められていて、いいなと。美雪も、小説や台本で読んでいたときより、もっとちゃんと存在の肉付きがあって、芯があって、さらにかなわない人になっているな、と思いました(笑)。

(取材・文・写真/井上健一)