井上馨役の福士誠治

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。明治という新たな時代の中、主人公・渋沢栄一(吉沢亮)は、紆余(うよ)曲折を経ながらも、新しい日本を作るためにまい進していくが、その周囲には才能ある人物が多数集まってくる。その1人が、井上馨だ。長州藩出身で討幕運動に参加し、維新後は新政府で活躍。一時は大蔵省で上司を務めるなど、栄一とも深く関わっていく。演じるのは、これが大河ドラマ初出演となる福士誠治。役作りの裏話や見どころを語ってくれた。

-「青天を衝け」の井上馨をどんな人物だと捉えていますか。

 僕の中では、明治から再登場すると、一見、ちょっと現代人っぽいイメージがありますが、武士として生きてきた時代もある井上としては、洋服を着ていても、武士道みたいなものを忘れずにいるところがある人物。資料には「怒りっぽい」とも書かれていましたが、渋沢と共に世の中を変えるという気持ちはすごく大きい。ただ、「青天を衝け」の中では、渋沢に無理難題を吹っ掛ける役で、ちょっと調子がいい。「『やれ』と言えば、やってくれるだろう」という強引さみたいなものがある(笑)。

-演じる上で、そういう強引さをどんなふうに意識していますか。

 渋沢といるときは、少し我の強さを出せたら、ということは、台本を読んだり、監督と話し合う中で、意識するようにしました。演じる上では、井上の鈍感さというか、周りの空気に左右されずに、「世の中を固める上では、自分の意見が正しい」ということを強く意識しつつ、演じさせてもらいました。特に、明治に再登場してからの最初はそんな感じです。後半は世の中の流れが少しまとまってくることもあり、井上も空気を読み、周囲との調和も考えるようになります。ある意味、年齢と共に立場や役回り的に安定したところが出てくるのかな。

-井上は大きな声と豪快な振る舞いも特徴的ですね。

 豪快さや声の大きさといった部分は、やや意識的にやっています。裏のある人間や含みのある人間にはあまりしたくなかった。もちろん政治家なので、言葉とは裏腹に、自分の信念や目指す方向性といった野心を隠し持っている部分はありますが、声を発したときは「これが俺の意見だ」というところを真っすぐに見せたいと。もともと「怒りっぽい」と言われていた方ですが、台本には「怒る」と書かれた部分があまりなかったので、どこかで出せたら、ということも多少考えました。

-ところで、井上は栄一とも深く関わっていきますが、栄一役の吉沢亮さんの印象は?

 一緒にやっていて楽しいですし、ものすごく気持ちが飛んでくる素晴らしい俳優です。僕もすっかり、ファンになってしまいました。例を挙げれば、本番のとき、僕がテストより豪快に演じていたら、それに合わせて吉沢くんのお芝居も変わってきたんです。そんなふうにちゃんと気持ちを受けて、発信してくれる。それはとても心地いい時間で、これまで大河ドラマを引っ張ってきただけあって、吉沢くんにはとても助けられています。

-他の人物では、井上は同じ長州出身の伊藤博文と一緒にいることも多いですが、伊藤役の山崎育三郎さんの印象は?

 最近はすっかり「育ちゃん」と呼ばせてもらっています。僕と育三郎くんの初登場は幕末、井上と伊藤の2人が外国の船に乗り込み、英語で話すシーンでした(第十七回)。2人とも大河ドラマ初出演で初共演なのに、初登場が英語の長いせりふ(笑)。2人で「大変だね」と言いながら撮影を進めたことを覚えています。でも、そのおかげで仲間意識が芽生え、再登場したときは、「よかったね、今回は日本語だよ」と言いながら始めることができました(笑)。

-伊藤との関係で心掛けていることはありますか。

 2人での会話も多い井上と伊藤ですが、僕の中では、年上の井上よりも伊藤の方が切れ者だと思っています。それでも、いい意味でお互いを信頼しつつ、井上を手玉に取れるのが、伊藤という人物。僕としては、そこで手玉に取られていることに気付かないまま真っ向勝負する井上を、2人の関係性で描けたらと思っています。

-福士さんの考える明治編の見どころは?

 明治編に入った途端に、僕たちが日常的に使っている言葉が、ふんだんに出てくるようになりましたよね。例えば、郵便がこの時代のこの瞬間、こんなふうに出来上がった、あるいは紙幣が誕生し、その紙幣を扱う会社が生まれ、その会社が銀行という名前になった。そんなふうに今現在、僕らが生きている日本の社会の基盤がこの時代にできたことを、渋沢栄一の人生を描くドラマを通して知ることができる。それはきっと、見ている方にとっても学校の教科書で学ぶのとは全く違う納得感があり、面白く見られるのではないでしょうか。

-現代と地続きの感じがありますよね。

 それほど遠くない時代だったと改めて感じますし、自分の祖父や曽祖父がこういう時代に生きていたのかな、という想像もできます。しかも、銀行の誕生にも紆余曲折があり、現代に通じる会社の縮図にも似たところがあって、何とも言えない興奮があります。

-その中で、井上の見どころは?

 井上もきちんと社会に貢献しているところをぜひ見てもらいたいです。井上という人物は、「日本のために」という志があったとはいえ、勝手に船に乗って海外を見に行ったりしたわけで、バイタリティーや能力のある人物だと思います。もちろん、がさつでエネルギッシュで自分本位なところもあるのですが、「自分が一番になる」ことよりも、「世の中を少しでも良くするためには、渋沢の力が必要だ」と考えることができた人物でもあるわけです。自分の出世だけでなく、世の中のことを考える視野の広さ。そういう人間的な魅力を持つ井上の活躍にも、ぜひ注目してください。

(取材・文/井上健一)