渋沢栄一役の吉沢亮

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。11月後半に差し掛かり、いよいよ物語は全編のクライマックスに突入する。幕末から明治へと時代が激動する中、新しい日本を作るために奮闘してきた渋沢栄一の物語は、どんな結末を迎えるのか。主演の吉沢亮が、ラストスパートに懸ける意気込みを交えながら、1年以上に及ぶ撮影を振り返ってくれた。

-いよいよドラマはクライマックスを迎えます。意気込みはいかがでしょうか。

 栄一の立場や年齢、置かれている状況はどんどん変わっていきますが、最後まで落ち着くことなく、幾つになっても情熱を持ち、時に空回りしながらやっていくスタイルは最後まで変わりません。だから、熱量みたいなものは保ちつつ、最後まで勢いのある作品として突っ走れる気がしています。

-これから晩年を迎える栄一を演じる上で心掛けたことは?

 その辺が難しいところです。あまり年齢を意識し過ぎると、栄一のエネルギーや勢いみたいなものが落ちていってしまうので。話す言葉のスピード感や声質、体の動きなど、監督と相談していいあんばいを探りながら、晩年の芝居を細かく作っていっています。例えば、後ろを振り返るときも、首だけではいかずに体全体でいったり…。一番に考えているのは、第1回から続く栄一のエネルギーを最後まで保ちたい、ということです。

-ドラマ上の大きな出来事としては、まもなく妻・千代との悲しい別れが訪れます。そのシーンの撮影はいかがでしたか。

 つらかったです。お千代の最後のシーンである上に、(演じる橋本愛の)クランクアップでもあったので、ずっと支えてくれたお千代がいなくなってしまう寂しさと、シーン自体の重さで、僕は号泣していました。今まで登場人物の死を描くとき、例えば、栄一の両親の場合、悲しくはあるんだけれど、その人の人生の美しさが表現されていたり、その人から頂いたものを自分の中で消化して前を向いたり、どこかポジティブな要素があったと思うんです。でも、お千代の死に関してはあまりにも急だったし、苦しさしかない、みたいなシーンだったので。衝撃的でした。

-その一方で、栄一にとって重要な存在である徳川慶喜(草なぎ剛)との関係は終盤まで続きます。2人の堅い絆を表現する吉沢さんと草なぎさんのお芝居には毎回、心打たれるものがありますが、長期にわたって共演する中で、吉沢さんから見た草なぎさんとの距離感に変化はありましたか。

 基本的には、あまり変わっていない気がします。意識的に距離を置こうと思っているわけではありませんが、やっぱり僕の中に草なぎさんに対する緊張感があって。栄一と慶喜の関係性に引っ張られているのかどうかは分かりませんが、撮影の合間に話をするようなこともなく、そういう緊張感がほどよく芝居に乗っていた気がします。そういう意味では、それもよかったのかなと。ただその分、終盤になって2人で一緒に取材をさせていただいたときは、僕の方がだいぶ緊張していましたが(笑)。

-そういう意味では、他の共演者と草なぎさんとでは、距離感も違っていたのでしょうか。例えば、五代友厚役のディーン・フジオカさんは、栄一と五代が初めて会うシーンで、吉沢さんの方から「せりふをこう言いたいのですが」と相談を受けたと語っていましたが。

 草なぎさんのお芝居って、本当に何が出てくるのか想像がつかないんです。せりふの間をちょっと詰めてみたり、間合いを引っ張ってみたり、いきなり声を荒げてみたり、お芝居のプランが全く分からなくて。言ってみれば、その場に慶喜としているだけで、草なぎさんの存在がゼロになるというか。だから、いい意味ですごく不安になるし、いい方向に引っ張ってもらえるし、草なぎさんとお芝居をしている瞬間にしか生まれない緊張感みたいなものがあって。そういう意味では、2人で相談して作り上げるというよりも、お互いの中から瞬間的に出てくる生のものをその場で拾ってキャッチボールして、みたいな空気感だったので、特殊といえば特殊だったかもしれません。

-今後も栄一が慶喜の伝記を編さんするなどの展開があるそうですが、2人の見どころを教えてください。

 この先、慶喜さんとのシーンは、どれも泣けるシーンばかりです。2人の最後の対面では、短い会話の中で、慶喜さんがものすごくいいことを言うんです。それは、言ってみればこの作品のテーマを語っている場面でもあります。グッとくる場面なので、ぜひ注目してください。

-それは楽しみですね。ところで、これから注目の登場人物としては、栄一の再婚相手・兼子(大島優子)がいます。栄一と兼子の関係について教えてください。

 兼子さんは、お千代とはまったく違う強さとエネルギーを持っています。お千代は、妻ではあるけれど、同時に母性も感じて、栄一が甘えたくなるような女性でした。実際、ずっと甘えてきましたし。それに対して兼子さんは、プライベートの面でも仕事の面でも、なんでも相談する対等なパートナーという感じです。あまりべたべたもしてないし、これも一つの夫婦の形で、いい距離感じゃないのかなと。

-最後に、ここまで1年以上演じてきた渋沢栄一の印象を聞かせてください。

 演じる前は、調べれば調べるほど、素晴らしい功績を幾つも残した人だと分かり、「こんなすごい人を演じるのか」と思っていました。でも、実際に台本を読み、お芝居をしていく中で、当時の「世の中を変えなければ」という若い人たちのパワーは、栄一さんだけでなく、みんなすごいものがあったんだなと。栄一さんの周りにも、慶喜さんや(平岡)円四郎(堤真一)さんなど、スターがたくさんいますし。栄一さんはそういう環境の中で、その人たちが時代の波に飲まれていく瞬間や、何かが終わって何かが生まれる瞬間をずっと見てきたわけで、いろんな人にいろんなものをもらってきたんだろうなと。

-その人生を演じてきた吉沢さんだからこそ出てくる言葉ですね。

 正直、最初に「渋沢栄一さん」と聞いたときは「一万円札になる人」ぐらいの認識しかなかったんです。でも、お芝居をしていく中でどんどん見え方が変わってきて、やっぱり人は一面じゃないんだなと痛感しました。大河ドラマの主人公というと、織田信長など有名な武将が人気で、僕自身もそういうヒーローに対する憧れはあります。でも今回、栄一さんを演じられたことは、誰もが知る戦国武将を演じるより、僕にとっては何倍もうれしいことでした。

(取材・文/井上健一)