そんなABCのカバーアルバム第3弾『Recreation3』が3月6日に発売された。今回も選曲の妙に唸らされた。「恋におちて」「1/3の純情な感情」「悲しみがとまらない」「時の流れに身をまかせ」「最後の雨」「少年時代」「未来予想図Ⅱ」他、ポップス、歌謡曲、様々なタイプの名曲の数々を、見事に歌い上げている。いい曲というのは、往々にして難しいものだ。それを、独特のクリアかつ色気を感じさせてくれるハイトーンボイスで“きちんと”表現している。“きちんと”、というのはつまり“潔さ”だ。オリジナルを超えてやるとか、そういう気持ちではなく、そのアーティストと楽曲に対してリスペクトの気持ちを忘れることなく、自分がその曲を初めて聴いた時の感動を、素直に伝えようという気持ち、姿勢で臨んでいるということ、それが“潔い”ということだ。

そして原曲の良さ、雰囲気を壊してしまうようなアレンジではなく、あくまでもオリジナルの空気感を失うことなく、言葉とメロディを100%伝えるべくアレンジにもこだわっていることを感じさせてくれる。

アーティストABCの血となり、肉となり影響を受けた名曲達を、愛しむように歌う彼の想いはアルバムのジャケットにも現れている。陽だまりの中、小さな女のコにギターを爪弾きながら歌を聴かせている彼の姿はまさに名曲の伝道者であり、表現者だ。

小さな女のコといえば、ABCのライヴは若いファンはもちろん、親子で来ている人たちも多く見かける。オリジナルとともに、カバーに力を入れているということが、ファン層の広がり、裾野の広がりに繋がっているようだ。これが、最初に書いたカバーをやる意味だ。カバーをきっかけに、オリジナルに触れてもらうことで、バンドで10年、ソロで5年のキャリアを積んだ今でも、新規ファンの開拓が確実にできているということだ。

自分の血となり肉となった名曲を歌うことで、それがまた新しい血となり肉となり、アーティストとして“深化”を続け、オリジナルにも“深み”が出てくるということだろう。
そんなABCの“潔さ”を、是非『Recreation3』で感じてほしい。
 


泣けると話題の「未来予想図Ⅱ」のMUSIC VIDEO

 

 元ORICON STYLE編集長で2013年2月にオリコン・エンタテインメント株式会社を退社。現在はフリーライターとして執筆中。

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