『ファーザー』 (C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

 昨年に引き続き、新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された2021年もようやく暮れようとしている。たびたび出された緊急事態宣言の中、映画館への入場規制は続き、洋画の大作の公開も軒並み延期されたが、その分、地味ながら、家族、老人、安楽死、ジェンダー、人種など、現代社会が抱えるさまざまな問題を捉えた“小さな映画”が精彩を放った。

 そうした傾向を反映してか、アカデミー賞も、作品賞、監督賞(クロエ・ジャオ)、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)は、キャンピングカーで米国各地を放浪する、現代のノマド(遊牧民)と呼ぶべき女性を描いた『ノマドランド』。主演男優賞は、認知症の父と娘の葛藤を描いた『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスという、比較的地味な映画が受賞した。

 一方、必ずしも明るくはない現実からの逃避願望が反映されたような、タイムスリップやパラレルワールド、仮想現実といった、非現実の世界を描いた映画や、コロナ禍でピンチを迎えた映画や映画館への愛をうたったものも目立った。

 今回は、独断と偏見による「2021年の映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。「オミクロン株」の行方など、まだまだ不透明な状況が続くが、来年こそは安心して映画館で映画が見られるような状況になることを願うのみである。

外国映画
1.人間の記憶や脳内こそが最大のミステリー『ファーザー』
2.アメリカ映画おはこの告発劇『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
3.事実は小説より奇なり。米ソ冷戦下の実話を基にした『クーリエ:最高機密の運び屋』
4.懐かしさと新しさが混在する摩訶不思議な世界が現出する『ラストナイト・イン・ソーホー』
5.車上生活者を描きながら、現代流の西部劇の趣もある『ノマドランド』
6.現代版の「シラノ・ド・ベルジュラック」『ディア・エヴァン・ハンセン』
7.フランス人監督が描いた“最後の日本兵”の30年間『ONODA 一万夜を越えて』
8.ダニエル・クレイグ版ボンドシリーズの完結編『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
9.ただ家が欲しかっただけなのに…不条理サスペンススリラー『ビバリウム』
10.台湾発、記憶と時間にまつわる新機軸のラブコメディー『1秒先の彼女』

日本映画
1.「この世界は生きづらく温かい」のか? 二律背反する思いを抱かされる『すばらしき世界』
2.優れたミステリーを見るような面白さがある『ドライブ・マイ・カー』
3.登場人物たちをずっと見ていたいような気分になる『子供はわかってあげない』
4.「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだ」『サマーフィルムにのって』
5.室蘭を舞台にした映像詩集『モルエラニの霧の中』
6.加賀まりこと塚地武雅が本当の親子のように見えてくる『梅切らぬバカ』
7.「ビールください」と「愛している」さえ知っていればいい『アジアの天使』
8.震災やコロナ禍での映画や映画館に対する思いを反映させた『浜の朝日の嘘つきどもと』
9.実質的な悪人が一人も登場しない変則家族劇『かそけきサンカヨウ』
10.映画作りへの愛と映画の力を信じる心を描いた『キネマの神様』

(田中雄二)