20年間のロングセラーには理由がある新潮文庫の「マイブック」

書店で目に留まった、一冊の本。タイトルは「マイブック―2022年の記録―」。この本がいったいどのような本なのかが気になり購入することにした。今回は、ちょっと不思議な文庫本、マイブックの紹介をしたい。

マイブックとは、どのような本なのか

マイブックは新潮文庫から出版されている文庫本で、価格はワンコインで買える440円だ。裏表紙には「マイブックには、日付と曜日しか入っていません。」と書いてある。

そんな本があるのだろうかと目を疑った。中を開いてみると、本当に日付と曜日しか書いていなかった。どれだけページをめくっても、まっさらなページが出てくるだけである。ただ、しおりの紐がしっかりとついているのを見つけて文庫本であることが感じられた。

もしかして、と思って後ろの方にページを進めたところ、あとがきにも「あとがき」という表記以外に何も書いていなかった。

マイブックは20年のロングセラー

マイブックの正式名称は「マイブック―2022年の記録―」である。2022年の記録と書いてあるということは、以前から販売していたのかもしれない。そう思ってネットで検索すると、2021年の記録や2020年の記録を、実際に購入した人がレビューしている記事が見つかった。

筆者は、マイブックがいつから出版されているのか気になり、早速、新潮文庫に電話で問い合わせてみた。丁寧に対応していただき、2000年からマイブックの歴史が始まっていたことがわかった。

つまり、1999年に発売された「マイブック―2000年の記録―」が初めて発行されたマイブックということになる。20年以上も前からあったなんて…と、本当に驚いた。

「マイブック」のおもしろいところ

20年間もロングセラーとなっているマイブックの魅力を筆者なりに考えてみると、やはり、自分自身が文庫本の著者になれるところではないだろうか。実際に、著者になった気分になるための仕掛けがある。

それは、表紙を開いてすぐのカバー表紙のそでにある。自分自身の写真を貼って、自分の名前(ペンネームをつくって入れてもいいだろう)や出身地、経歴などのプロフィールが記載できるようになっているのだ。これを見ただけでも「なるほど、この本の著者になれるな」と納得した。

なお、著者名を書くところは、カバーの他にもたくさんある。本の最初のページ(扉)は、「著」の前に自分の名前が書けるように空欄になっている。奥付にも著者名を記すところが用意されている。

奥付に名前が入ると、あたかも企画・デザインをしていただき、自分が執筆した本のように感じる。なんておもしろいのだろうと思い、長く愛されている理由を実感するのだった。

もちろん、カバーの下にある本自体の表紙や背表紙にも著者名を書く部分があるので、忘れずに。

マイブックの活用方法

日付と曜日以外は何も書かれていない不思議なマイブックだが、自由度の高い本であることが分かる。その人のアイデアによって使い方はさまざまあると思うが、主な活用の方法について紹介しよう。

毎日の出来事をつづる「日記」

寝る前に一日を振り返って日記を書く人も多い。「今日は仕事でミスをして、とても落ち込んだ。」「晩ご飯は好物のハンバーグで、テンションが上がった。」など、寝る前に時間をつくって自分の一日を振り返って向き合えば、次の日を楽しみにする時間にもなる。

朝型の人なら、読書や運動などをしてゆっくりと過ごしているかもしれない。「今日は○○という本を読んだ。」「いつもよりも1時間早く目覚めて、朝日を浴びた。」「妻が作る朝ごはんの匂いで目が覚めた。」など、朝起きて感じた出来事は、夜には忘れてしまうことも多いので、新鮮なうちに書きとめておくのもいいだろう。

筆者だったら毎朝「眠い」だけになってしまいそうだが、朝に時間の余裕がある人には、朝日記もおすすめだ。

1日1ページ形式で使う「スケジュール帳」

すべてが真っ白なスケジュール帳は、ありそうでなかなか売っていない。マイブックは、1日1ページずつになっている本なので、マンスリーやウィークリーのページが必要ないという人には、ぴったりのスケジュール帳となるだろう。

スケジュールをただひたすらに書き込むのもよし。イラストを描いて、かわいく自分流に仕上げるのもよし。自由度が高いからこそ、スケジュール帳としても活躍するのではないだろうか。

また、文庫本サイズなのでカバンの中を圧迫しないのもいい。

思いついたことはまずここへ「なんでもノート」

朝日記の応用ではないが、とりあえず思いついたことをすぐにその場でメモしておく用途で使うのもおすすめだ。例えば、SNSで投稿をしている人は、投稿したいネタやアイデアがひらめいたときに忘れずに書いておくといいだろう。

ビジネスマンならプレゼンの企画案やデザインを思いついたときなどにも使える。「今、メモしたい!」と思ったときに、紙がないというケースも多いだろう。かゆいところに手が届くのがマイブックとなる。

確かに最近では、スマートフォンにメモをするケースも増えているが、検索せずに後から簡単に見返せたり、手書き派を貫いている人には特におすすめの活用方法だ。

筆者が気になったマイブックのある部分

筆者はマイブックを触っていたとき、ある部分に異変を感じた。本の上の部分(天)が、ギザギザしているではないか。

マイブックだけがこうなっているのかと気になって、自宅にある本を5冊比べてみた。左から、加藤シゲアキ著「ピンクとグレー」(角川文庫)、東野圭吾著「人魚の眠る家」(幻冬舎文庫)、朝井リョウ著「何者」(新潮文庫)、重松清著「せんせい。」(新潮文庫)、「マイブック―2022年の記録―」(新潮文庫)である。

これらの本を裏返しにして、本の上の部分(天)が分かるようにしてみると、3冊(新潮文庫)は上がギザギザで、2冊(角川文庫、幻冬舎文庫)はきれいにまっすぐだった。

調べてみるとこのギザギザは、新潮文庫こだわりの製本であることが分かった。新潮文庫は、本の中に入っているしおりの紐を、製本の過程で最初に表紙に貼り付ける。

その結果、本の上部分(天)を断裁するとしおりも切れてしまうので、そのままにしているということだった。このように上部(天)を断裁しない製本方法を「天アンカット」といい、岩波文庫も同じ手法をとっているそうだ。

多くの文庫本は、上も含めて断裁しているため、きれいにそろった本ができあがるという仕組み。筆者はマイブックと出会ったことで、思わぬ形で製本の歴史的な違いを知ることができた。

マイブックは、読み返したときに「ふふっ」となる本

マイブックは、日付と曜日しか書かれていないまっさらな本だ。使い方も何を書くかもすべて自分次第。その日、そのとき、自分が何を感じ、何をしていたのか。

数年後に読み返したときに、思わず「ふふっ」と思い出せるかもしれない。そのようなきっかけになるのが、マイブックの魅力だと筆者は感じている。(GEAR)