ついに放送が始まったNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。1月9日の第1回「大いなる小競り合い」は、これから活躍する多数の登場人物を軽妙なやり取りの中で巧みに紹介しつつ、武家社会の厳しさを交えて物語を進めるなど、名脚本家・三谷幸喜の筆が冴えわたった1時間だった。
その中心にいたのが、源頼朝が屋敷に転がり込んできたことで騒動に巻き込まれ、右往左往する主人公・北条義時だ。この第1回で小栗旬は、まだ何者でもない義時を見事に演じてみせた。兄・宗時(片岡愛之助)から無理やり頼朝(大泉洋)に引き合わされ、困り果てる姿など、いかにも平凡な若者といった雰囲気がにじみ出ていた。
筆者は前回、「【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人」間もなくスタート!主演を決意した小栗旬の覚悟と北条義時役への期待」と題した記事で、義時役の小栗に対する期待を書いたが、ここをスタート地点として、義時は鎌倉幕府の頂点に立つ「帝王」へと変貌していくことになる。
だが、その変貌は義時1人で成し遂げられるものではない。1年にわたって物語が紡がれる大河ドラマでは、主人公はさまざまな人物との出会いを重ねて成長していくが、中でも特に深いかかわりを持つ人物との関係は、物語の大きな柱となる。
最近の作品を振り返ってみても、「麒麟がくる」(20~21)では明智光秀(長谷川博己)と斎藤道三(本木雅弘)や織田信長(染谷将太)、「青天を衝け」(21)では渋沢栄一(吉沢亮)と平岡円四郎(堤真一)や徳川慶喜(草なぎ剛)といった人物との関係を軸に、物語が動いていった。
今回、義時にとってそんな存在に当たるのが、大泉演じる頼朝だ。制作統括の清水拓哉氏は、2人の関係について「(義時が)頼朝から受けた影響は計り知れないものがあったはずです」「(物語の前半では)義理の兄弟でもある頼朝と義時の『奇妙なバディ』をじっくり描こうという考えです」と当サイトのインタビューで語っている。
第1回では、京の都出身で源氏の嫡流である頼朝は、義時ら坂東武者よりも格上の存在であることが示されていた。
また、八重(新垣結衣)との間に生まれた幼い息子・千鶴丸の死を義時から聞かされた頼朝は、淡々と「仕方あるまい。それがあれの定めであったのだ」と語りながらも、義時が去った途端、千鶴丸の命を奪った伊東祐親(浅野和之)の暗殺を命じ、「決して許さん!」と激怒する。
容易に本心を見せないその姿と内に秘めた激しさからは、後の鎌倉幕府初代将軍にふさわしい底知れなさが伝わるのと同時に、「今までにない大泉洋が見られるかもしれない」という期待を抱かせてくれた。
小栗=義時はそんな大泉=頼朝の影響を受け、一歩ずつ「帝王」への階段を上っていくこととなる。
そしてもう一人、義時との関係で注目したいのが、頼朝の妻となる姉・政子だ。ご存じの通り史実では、頼朝は鎌倉幕府成立後、ほどなくして世を去る。政子はその後、義時と二人三脚で幕府の屋台骨を支え、「尼将軍」と呼ばれるほどの存在になっていく。
演じる小池栄子は、数々の作品で変幻自在な演技を披露してきた巧者。第1回では、頼朝の気を引こうとする姿をコミカルに演じていたが、「帝王」に変貌していく小栗=義時と共に、平凡な武家の娘から尼将軍に上り詰めていく政子を、説得力を持って表現してくれるはずだ。
これから小栗=義時は、大泉=頼朝や小池=政子とかかわる中で、どのように帝王へと変貌を遂げていくのか。そして、その過程で彼らがどんな空気感を生み出していくのか。
前述した「麒麟がくる」や「青天を衝け」などでも見られたが、共に濃密な時間を過ごした役者同士が生み出す唯一無二の空気感は、物語に豊かな味わいをもたらし、大きな魅力となっていた。
記者会見やパブリック・ビューイングなど、出演者がそろう場を取材していると、これまでも互いに共演経験がある小栗、大泉、小池の間には、打ち解けた空気が漂っていることが分かる。
だが、その関係がそのまま役に反映されるとは限らない。むしろ、気心の知れた3人だからこそ、役を通して濃密な時間を過ごす中で、今までにない空気感を生み出していく可能性も十分にある。彼らがこれからどんな空気感を生み出し、私たちを魅了してくれるのか。物語の行方が気になるとともに、そんな期待も膨らむ物語の船出だった。
(井上健一)