突然、死んで生前の記憶を失った魂・シロ(長尾謙杜)は、「管理人」を名乗る謎の人物から、同じく死んだ高校生・小林真の体に“ホームステイ”し、100日以内に真が死んだ理由を突き止めるよう指示される。真として生きることになったシロは、幼なじみの晶(山田杏奈)や、憧れの先輩・美月(八木莉可子)と日々を過ごす中、真の死の真相を探っていくが…。森絵都の名作小説『カラフル』を映像化した『HOMESTAY(ホームステイ)』が、2月11日からAmazon Prime Videoで世界同時配信となる。Amazonが製作する初の日本映画として注目を集める本作の監督は、『PARKS パークス』(17)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(20)などを手掛けてきた瀬田なつき。配信開始を前に、作品に込めた思いや撮影の舞台裏を語ってくれた。
-原作はこれまで何度も映像化されてきた森絵都さんの小説『カラフル』ですが、その魅力をどう考えていますか。
割と重い話ではあるんですけど、それがファンタスティックな世界観で描かれているんです。ファンタジー風に始まり、「なぜ小林真は死んだのか?」というミステリー的な語り口の中に、青春映画的な部分や家族の問題、友情、「生きるとは?」というメッセージなど、いろいろな要素が詰まっている。そういう物語は、他にあまりないなと思って。
-そんな魅力的な原作を今回改めて映像化する上で、心掛けたことは?
Amazon Original 映画として世界同時配信される初めての日本映画ということで、若い方からご家族まで、皆さんにご覧いただける要素はどういうところなのか、みんなでブラッシュアップしていきました。配信という形式も考慮し、物語がどんどん転がっていくように見せたいと思っていました。
-おっしゃるように、物語には重い部分もありますが、全体的には前向きな雰囲気があふれていて、導入部も軽妙で一気に引き込まれました。
そう言っていただけると、すごくうれしいです。入り方は、スピーディーに話に引き込めるように、モノローグを増やしてみたり、編集にもこだわってみたりと、いろいろ試行錯誤しました。
-これが初主演となる長尾謙杜さんのはつらつとした演技も魅力的で、物語を引き立てています。テレビの連ドラなどでも注目を集める若手俳優ですが、印象はいかがでしたか。
初主演のプレッシャーはあったのかもしれませんが、物おじせず、現場を楽しもうとする気持ちがすごく伝わってきました。いつも元気で、彼の持ち前の明るさが、現場の雰囲気や、シロの前向きなキャラクターにも生かされていたように思います。
-お芝居について長尾さんとはどんな話をしましたか。
実はシロって、すごく難しい役なんです。真の中にシロが乗り移っているので、シロではなく、真でもない「真を演じるシロ」を演じるわけですから。しかも、その微妙なニュアンスをきちんと浮かび上がらせ、お客さんに伝わるようにしなければいけない。それをどんなふうに形にしていくのか、現場で長尾くんとも相談しながら、脚本の行間を一つずつ探っていった感じです。どこまで真らしくするのか、「ここまでしたら真じゃなくて、別人になっちゃうね」みたいな見え方のバランスは、本当に繊細で難しかったです。
-そういう意味では、長尾さんと共演者の関係も重要だと思いますが、演出はどのように?
周囲の人々や家族との関係性を通して、いろいろなことが浮かび上がってくるように心掛けました。幼なじみの晶は真のことをよく知っているので異変に気付いたり、憧れの美月先輩とのシーンではシロ自身の楽しい気分も出してみたり…。現場では、役者さんたちに説明しながら、いろいろとトライしていただき、一つ一つ積み上げていった感じです。山田さんや八木さんも、長尾くんの芝居をうまく受けてくださったので、そこから見えてくる部分もありました。
-ところで、本作では、彩雲や花火の絵など「空」が効果的に使われていますね。家にいる時間が長いこのご時世、空を見る機会も減っていますが、この作品を見ると空を見上げたくなります。
空を見上げると、どこまでも同じ空間が広がっていますよね。だから、それが皆をつないでいくものになったらいいな、という思いを「空」には込めています。この作品をきっかけに、窓の外を見て、どこまでも広がっている空を通じて、今はなかなか会えない人ともつながっていることを感じてもらえたらうれしいです。
-その点も含めて、人とのつながりを再確認させてくれる物語でもありますね。
他人の体に入って人生をもう一度やり直すことを通じて、「今までの日常を違った角度から見つめ直してみよう」という物語ですが、それに加えて「周りの人に伝えられなかったことや、伝え損ねたことが、実はたくさんあったのかもしれない」ということに気付かせてくれる物語でもあると思います。だから、ご覧になった方が人に思いを伝えられたりするような、ちょっとでも背中を押す作品になってくれたらいいですね。
-そういう意味では、人と会う機会が減っている今の時代にぴったりな作品だと思います。
そう言われると、今はリモートワークなども広まりましたが、その反面、離れていることによるコミュニケーションのずれや難しさ、みたいなことも感じる機会が増えた気もします。偶然とはいえ、そういう意味で今の時代とリンクした作品になっているのかもしれません。
-瀬田監督自身が、この映画の製作を通して気付いたことはありますか。
実は、今の話は私自身にも言えることで、今回は初めてご一緒するスタッフやキャストが多かったので、伝えることの難しさを感じながらの作業になりました。VFXや演出も含めていろいろな挑戦もありましたし、自分自身を見つめ直すいい機会になりました。
(取材・文/井上健一)