ジャズ・ピアノの塩谷哲と大林武司の二人が、東京芸術劇場の「VS」(ヴァーサス)シリーズで2台ピアノのデュオを聴かせる[3月25日(金)東京芸術劇場コンサートホール]。
1966年生まれの塩谷と1987年生まれの大林。これが初共演だが、二人の出会いは2006年までさかのぼる。そのきっかけもまさに2台ピアノだった。塩谷と小曽根真のデュオを聴きに行った19歳の大林が、終演後のサイン会に並んで言葉を交わした。
大林「2台ピアノを聴いたのはそれが初めて。渡米直前だったのですが、前向きで気持ちの豊かな演奏に刺激を受けて、留学の決意を強くしました」
塩谷「その2年後に室蘭のフェスで、寺久保エレナさんのバンドにすごくいいピアニストがいて、えっ、あの時の青年なの!?と」
塩谷は東京芸大の、大林は東京音大の、作曲科に在籍・中退という共通の経歴の持ち主。
大林「演奏するには作曲も勉強したほうがいいと思って。でも演奏の感動には変え難いものがありました。ただ、東京音大に行っていなければ演奏家としてやる腹がくくれていなかったかもしれません」
塩谷「作曲理論という知性で制御された芸術と、即興演奏のように瞬間で生まれる芸術がある。でもどちらにも強烈なリアリティがなければいい音楽とは言えないというのが、僕が辿り着いた答えです」
今回はジャズ・スタンダードとオリジナル作品を弾く予定だが、「ジャズ」というジャンルにはこだわっていない。
塩谷「作り込んだものでも、スケッチを即興的に膨らませるのでも、大林くんとならなんでもできる。ピアニストが二人いるとぐちゃぐちゃになってしまう怖れもあるのですが、そうならならないのは、彼が〝聴く〟ということがすごくよくできているから。瞬間瞬間で生まれるひとつのものを二人で楽しむことができるのは、このうえなく楽しいことです」
大林「デュアルコアみたいに、音楽を創造するイマジネーションが2つあるのがピアノ・デュオ。塩谷さんの洗練された音色やアプローチは無条件にいいなと感じます。そんなピアニスト像は僕の目標です。でも、ずっと仲良しじゃ面白くないので、どこに逆説を投じるか。その〝ヴァーサス〟が音楽を豊かにする栄養になると思っています」
塩谷「〝ヴァーサス〟だけど、聴いてくれた人たちに〝ガーサス!〟って言われたいね(笑)」
説明は野暮とは思うけれど、【ガーサス:「さすが」の楽隊用語】。いただきました!
(宮本明)