第88作目となるNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』が、好調なスタートを切っている。初回の視聴率は20.1%(ビデオリサーチ社調べ・関東地区)。初回から20%を超えたのは、2006年の『芋たこなんきん』以来、7年ぶりとなる。最近では期間平均視聴率が20%を超えた『梅ちゃん先生』も初回は18.5%だったので、それだけ『あまちゃん』は放送前から注目されていたということだ。

その理由は、やっぱり脚本が宮藤官九郎だということが大きかったと思う。あの宮藤官九郎がNHKで脚本を書く!? しかも朝ドラ!? それだけで見てみようと思った人は多かったはずだ。ということで、今回はそんな宮藤官九郎が手がける『あまちゃん』の出だしを検証しながら、今後の展開を占ってみよう。
 

 

クドカンワールドを残した上での朝ドラ

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昨年の春、宮藤官九郎がNHKの朝ドラを書くと発表された時は、やっぱり期待と不安が入り混じった。宮藤官九郎といえば、現代を代表する脚本家のひとりだが、テレビドラマではそんなに視聴率に恵まれているわけではない。平均で15%を超えたのは、織田裕二が出演した『ロケット・ボーイ』の18.8%と、二宮和也、錦戸亮、戸田恵梨香が共演した『流星の絆』の16.6%くらい。

テレビに進出してきた頃の『池袋ウエストゲートパーク』は14.9%、単発スペシャルから連ドラになった『タイガー&ドラゴン』は12.8%、映画化された『木更津キャッツアイ』も連ドラでは10.1%とギリギリ2ケタに乗せた程度だった。あとは11時台の作品も含め、1ケタの平均視聴率しか取れていない。

そもそも宮藤官九郎の脚本というのは、速いテンポの会話に小ネタを散りばめて笑いを取りながら、瞬間的に人の心をえぐるような印象的なセリフを繰り出してくるのが特徴と言える。ところが、笑いの好みというのは人それぞれなので、物語のエンジンとなる笑いが単なるドタバタに感じてしまう人は、その中に隠れた泣けるセリフになかなかたどり着けない。じつはそういう人が意外と多くて、テレビドラマでは必ずしも高視聴率につながっていないんだと思う。
 

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でも、宮藤官九郎は常に自分のスタイルをゴリ押ししているわけではない。2006年にTBS系で昼ドラ『吾輩は主婦である』を書いた時も、最初は宮藤官九郎に昼ドラが合うかどうか心配したが、結果的に宮藤官九郎にしか書けない“昼ドラ”に仕上がっていた。つまり、いわゆるクドカンワールドを維持しながら、メイン視聴者層の主婦でも感情移入できる家族の物語をしっかり描いていたのだ。あんなに笑って泣ける昼ドラもそうはなかった。要するに、確固たる自分のカラーを持っていながら、放送枠のテイストに合わせることもできるのが、宮藤官九郎なのだ。

で、今回の『あまちゃん』はどうなのかというと、やっぱり宮藤官九郎のカラーをしっかり出しながら、朝ドラの王道をきちんと押さえていると思う。15分×6日で1週分という特殊なスタイルにも無理なく対応している感じ。このあたりが前作の朝ドラ『純と愛』とは違う気がする。