熱戦を繰り広げる富士通フロンティアーズとIBMビッグブルー

世界のIT業界でしのぎを削る大手ITベンダーチーム同士の対決となった第31回アメリカンフットボール日本社会人選手権「JAPAN X BOWL(JXB)」(National Football League=NFL後援)が12月18日、東京文京区の東京ドームで行われ、富士通フロンティアーズが63対23で勝利し、2年連続3度目の優勝を果たした。対するIBM BigBlue(ビッグブルー)は、前回に引き続き富士通に苦杯をなめ初優勝を逃した。IBMが優勝すれば、リーグ戦5位からの歴史的快挙になったが実現しなかった。富士通は、2018年1月3日に同じ東京ドームで、大学日本一となった「甲子園ボウル」優勝校の日本大学(フェニックス)と「第71回ライスボウル」で日本一を競う。


取材・文/ 谷畑 良胤、写真/ 南雲 亮平 JXBは、社会人アメリカンフットボールリーグ「Xリーグ」の「イースト」「セントラル」「ウエスト」の各ディビジョンでレギュラーシーズンを戦い、上位6チームとワイルドカード2チームがポストシーズンに進出しトーナメント戦を繰り広げ、上位2チームが対決して年間チャンピオンを決める大会だ。2014年に行われたJXBでは、富士通フロンティアーズが、44対10の大差でIBMビッグブルーを破っているだけに、IBMの雪辱にも陣営の期待が高まっていた。

東京ドームは、野球でいう1塁側にチームカラー別に“赤い富士通”、3塁側に“青いIBM”の集団が応援に駆け付けた。IT業界では、富士通販社を俗に「富士通系」、IBM販社を「IBM系」と呼ぶが、恐らく両社の応援団として、両系統の販社が双方で応援に熱を入れたに違いない。

週刊BCNでは、タイミングよく直近号で、富士通フロンティアーズ顧問の濱場正明氏(https://www.weeklybcn.com/journal/hitoarite/detail/20171211_159864.html)と、IBMビッグブルーのプレースキッカー(フィールドゴールなどを蹴るポジション)である小田倉彦氏(https://www.weeklybcn.com/journal/face/detail/20171208_159863.html)を取り上げている。小田倉氏は、第2クオーターに絶妙なキックを披露した。この記事を並行して読むことで、このあとの記事に面白みが増すことだろう。 前半、第1クオーター(1Q)で先制したのは、富士通。キックオフ14秒で、猪熊星也のキックオフリターンが決まり先制タッチダウン(TD)。トライフォーポイント(TP)も決まり7点。しかし、その3分後、IBMはパスをつなぎ、最後にランニングバック(RB)の高木穣がクオーターバック(QB)のクラフト・ケビンの短いパスを受けタッチダウン、TPも決まり同点。1Qは目まぐるしくサイドチェンジする展開。富士通はIBMに同点にされた数分後、ロングパスでゴール前3ヤードまで迫り、ファーストダウン(FD)でWR強盛にパスしてTD。終了37秒前には、再び富士通がゴール前の短いパスで、WRの福井雄哉につながりTDして突き放した。1Qは、21対7で富士通リードで折り返した。

1Q終了段階で、IBM陣営には2014年の大敗の悪夢が蘇る。2Q開始から富士通が押し気味も、IBMも負けずディフェンスが踏ん張り、ターンオーバーなどでなんとか自陣を取り返す。1980年後半のオフコン市場を見ているようである。IBMは攻めあぐねる中、敵陣でフィールドゴール(FG)をねらって決まり3点を返した。しかし、その数分後に富士通がQBのコービー・キャメロンの見事なロングパスで、WR中村輝晃クラークがうまく捕球しTDを決め、また、前半終了4分前にも、富士通がIBMからインターセプトしてそのままTDし突き放す。それでも、終了間際にIBMは、FGを決め、前半は、35対13の富士通リード。勢いが富士通のまま終了した

試合をライブで観戦していた方は、なにも面白くないだろうが、続けて、後半の3Qをリポートする。富士通とIBMといえば、IBMはIAサーバーをレノボに売却。一方の富士通はいまもシェアを堅持。富士通とIBMは、ともにパソコン事業を捨てた。行きつく先は、クラウドの雄かオンプレの雄か。空中戦か地上戦か。ハーフタイムには、80年代に活躍したレベッカの歌手NOKKOが登場、ヒット曲「フレンズ」などを披露した。80年代のオンプレの良き時代は去った。新たなテクノロジーで勝負。前へ前へ進め。 さて、3Qは、開始1分弱でIBMが細かいゲインで、最後にRBの末吉智一がTDして追い上げ、点差が15点に縮まる。「IBMは前回とは違う」。そんな雰囲気が、後半早々にIBMスタンドに漂う。ところが、その数分後、ゴール前の短いパスがWRの強に通り、再びリードを22点差に広げられる。IBMは苦しい展開、富士通は短いパスで、じりじりと時間をかせぐ。ところで、アメリカンフットボールは、スポーツでももっともIT利活用が進んでいる競技だ。両社の人工知能(AI)はどう動いているのか。この日、AIは動いていないだろうが、「スポッター」という競技場上部でフォーメーションの情勢を監督に常時伝える担当者の力量も問われる。そうこうしているうちに、3Q終了3分前に富士通が細かいランで得点を重ねた。3Q終了時点で、49対23の富士通リードで終盤をむかえた。

4Qは、開始2分もたたずに富士通のQBキャメロンが自ら持ち込みTDで、さらに差を広げた。このあとは、富士通の一方的なゲーム展開になった。IBMの応援席からは、帰宅の途につく人が増える。それでも、ギャンブルプレー満載のゲームだったが、両チームの全力投球は変わらない。だが、冒頭にも前述したが、最終的には、63対23で富士通が圧倒した。

勝利インタビューで藤田智ヘッドコーチは、「このゲームまでに特別な準備はしていない。今年も苦しかったので、まさかここまでくるとは思わなかった」と、リーグを含め戦績を振り返った。また、MVPになったWR中村輝晃クラークは、「シーズンを通してオフェンスがうまくいかないことも多かったが、今日は富士通のオフェンスを出せた。(ライスボウルは母校日大との対戦で)いろんな思いがあるのでうれしいし、とにかく頑張る」と、嬉しさを身体であらわした。