勝負の『大相撲五月場所』である。『三月場所』で新関脇優勝という双葉山以来86年ぶりとなる快挙をやってのけた若隆景は、一躍新大関候補の筆頭に躍り出た。先場所は関脇で12勝3敗。今場所ふた桁勝てば、『七月場所』で大関取りに挑むことになる。
来場所を待たずに、今場所一気に決める可能性もある。大関昇進の目安は「直近3場所を三役で33勝以上」とされている。ちなみに若隆景の『一月場所』は東前頭筆頭で9勝6敗だった。『五月場所』で先場所並みの好成績を収めれば、平幕だった『一月場所』が起点となる可能性もなくはない。そもそも西前頭筆頭で迎えた昨年の『十一月場所』も8勝7敗と勝ち越しながら、他の力士との兼ね合いで東の筆頭にとどまった経緯がある。今場所決めるにせよ、来場所につなげるにせよ、若隆景にとって『五月場所』が大切な場所であることに変わりはない。
そんなことは当の本人も十分理解している。5月2日、場所前のメディア対応で若隆景は「本当に今場所からが大事だと思っています」とキッパリ。白星を重ねるために自分の相撲を取り切ることが何よりも重要だ。おっつけからのはず押しであり、下からの攻めであり、土俵際の粘りである。
苦い思い出がある。初めての三役・小結で臨んだ昨年の『七月場所』は大関・正代に土をつけたものの5勝10敗と大きく負け越し、ひと場所で三役の座を明け渡した。場所後、小兵の若隆景は自分の生きる道として、下からの攻めを磨いていくことを誓った。
『三月場所』では自分の相撲を取り切った。
3日目、低く鋭い踏み込みからもろ差しで明生を一気に寄り切った。
7日目、15年ぶりの決まり手となる送り吊り落としで大栄翔に土をつけた。
9日目、76kgも重い逸ノ城に対して、2分近い大相撲の末に寄り切った。
11日目、強烈なおっつけからもろ差しとなり寄り切り、全勝の高安を止めた。
千秋楽・優勝決定戦、押し合いから引いた瞬間、高安に一気に詰められ、膝が折れて万事休すと思われたが、若隆景は土俵際で踏みとどまり、右上手と左手首をつかみ、右に回り込んで送り出すような上手出し投げを決めて天皇賜杯を手繰り寄せたのだった。
『五月場所』では研究もされるだろう。先場所は途中休場となった横綱・照ノ富士も3場所ぶりとなる優勝に照準を合わしてくる。大事な『五月場所』は厳しい戦いが待っている。
果たして、若隆景の躍進は続くのか。通常の87%に当たる9265人の入場者を上限として行われる『大相撲五月場所』は5月8日(日)~22日(日)・両国国技館で開催。チケット発売中。