比奈役の堀田真由(左)と北条義時役の小栗旬 (C)NHK

 NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。6月12日に放送された第23回「狩りと獲物」では、「曽我物語」で有名な“曽我事件”が描かれた。

 曽我事件は「曽我物語」の中では、父の敵である工藤祐経に対する曽我十郎と五郎兄弟の敵討ちを描いた美談として語り継がれてきた。しかし本作では、これを、敵討ちを装った御家人たちの源頼朝(大泉洋)に対する謀反と位置付けた。

 結局、曽我兄弟の頼朝暗殺計画は失敗したものの、謀反の話が広まると政権のダメージとなり、敵討ちのつもりで曽我兄弟に協力した北条時政(坂東彌十郎)も罪を問われかねない。そこで、謀反ではなく敵討ちの美談と偽ることで幕引きを図る。これまで定説をことごとく覆してきた本作らしい驚きの展開だった。

 そして、これを頼朝に献策したのが、主人公の北条義時(小栗旬)だった。源義高(市川染五郎)を死なせた第17回、奥州の源義経(菅田将暉)を陥れた第20回など、このところ義時が陰謀をめぐらす機会が増えてきたが、曽我事件もその流れの中に位置付けられたことになる。

 だが、結果的に失敗したものの、義高を救おうとした第17回や、頼朝から義経を討つことを命じられ、一瞬ためらいの表情を見せた第20回とは異なり、この回では北条家を守るため、義時自身が捕らえた曽我五郎の首をはねることを提案している。つまり、自らの手を汚すたびに、義時の闇が徐々に深まってきているようにも見える。

 そんな義時とは対照的に、濁りのないまっすぐな瞳を輝かせるのが、義時の息子・金剛(坂口健太郎)や義時の弟・北条時連(瀬戸康史)ら、新たな顔ぶれだ。成長後の金剛は、第23回が初登場。

 話題になった「成長著しい」という紹介テロップにふさわしいりりしさを発揮する一方、巻狩りの場では頼朝の嫡男・万寿(金子大地)に気を使う御家人たちをよそに、空気を読まない率直な振る舞いで笑いを誘った。また、時連も冒頭、義時や時政を相手に繰り広げたとぼけたやり取りには、ほほ笑ましいものがあった。

 新しい風を吹き込む彼らの真っすぐさや明るさは、重苦しさを増す物語の中で一服の清涼剤となっている。だが、振り返ってみれば、その明るさはもともと、義時が持っていたものではなかっただろうか。そこに気付いた途端、最近の義時の変貌がより際立ち、切なさが増してきた。

 放送開始当初のインタビューで小栗も「あんなに真っすぐだった青年(=義時)が、少しずつ『家族を守るためには、こうせざるを得ない』ということに手を染めていくところに悲しさもあって…」と語っていたが、まさにわれわれは今、それを目にしているわけだ。

 その点では、第23回の終盤、比奈(堀田真由)が義時に思いを打ち明ける一幕も印象深かった。「鎌倉に帰ったら、私の世話は無用ですから」と告げる義時に、「もう少し、そばにいさせてください」と願い出る比奈。

 しかし、義時は「私は、あなたが思っているよりも、ずっと汚い。一族を守るためなら、手立てを選ばぬ男です。一緒にいても、幸せにはなれない。そして何より、私は死んだ妻のことを忘れることができない。申し訳ない」と断る。これに対して比奈はこう食い下がる。

 「私の方を向いてくれとは言いません。私が小四郎殿を見ていれば、それでいいのです」

 この言葉は、第13回で義時が思いを寄せる八重(新垣結衣)に告げた、「振り向かなくても構わない。背を向けたいのなら、それでもいい。私はその背中に尽くす。八重さんの後姿が幸せそうなら、私は満足です」という言葉を思い出させる。

 かつてそんな言葉を発したとは思えない今の義時を見ていると、いつの間にか遠いところに来てしまったことを実感する。そんなことに気付かせてくれる若い世代の金剛や時連、比奈らと義時がこれからどう関わり、どう変わっていくのか。間もなく後半を迎える物語の行方とともに、これからも見守っていきたい。

(井上健一)