4~6月期の連ドラが、いよいよ終盤を迎えている。比較的、良作が多い今期の連ドラの中で、じわじわと注目が高まっているのが、櫻井翔が主演するフジ系水曜10時の『家族ゲーム』だ。平均視聴率も『ガリレオ』『ラスト・シンデレラ』『35歳の高校生』に次いで4位をキープ。初回の12.0%から2ケタを切ることはなく、第8話までの平均視聴率は12.56%と、安定した数字を残している(ビデオリサーチ社調べ・関東地区)。

このドラマの企画が発表された時、さすがに森田芳光監督の映画版で主演した松田優作のイメージが強いせいか、櫻井翔には向かない役なのではないか、という声も多かった。しかし、蓋を開けてみると、オリジナルのキャラクターを作っていて、作品全体としてもなかなか見応えのある内容になっている。ということで、今回は原作や過去の映像化と比較しながら、フジテレビ版『家族ゲーム』の結末を占ってみよう。
 

何度も映像化されている『家族ゲーム』

『家族ゲーム』
本間 洋平(著)
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『家族ゲーム』の原作が発表されたのは、今から32年前の1981年。本間洋平という作家がこの小説で第5回すばる文学賞を受賞して、すばる本誌に掲載されたのが最初だった。翌年の1982年1月に単行本として発売され、その年の11月には早くもテレ朝系で2時間ドラマになっている。

この時に家庭教師の吉本を演じたのは鹿賀丈史。原作では兄と弟の2人兄弟がいる沼田家に勉強を教えに行くが、このドラマの沼田家は姉と弟で、その姉を岸本加世子が演じていた。テレ朝版の『家族ゲーム』は、1984年3月にもほぼ同じメンバーで続編が作られているが、残念ながらどちらもDVD化はされていない。

 そして、1983年6月に公開されたのが、森田芳光監督の映画『家族ゲーム』だ。家庭教師の吉本を演じたのは松田優作。次男の茂之を宮川一朗太、父親を伊丹十三、母親を由紀さおりが演じていた。食卓が横長のテーブルで、吉本を含め、家族全員がカメラのほうを向いて食事をする演出は印象的だった。森田芳光、松田優作、伊丹十三、ともに現在は故人となってしまっているが、宮川一朗太は櫻井翔が主演する今回の『家族ゲーム』の初回にゲスト出演している。家電メーカーで働く沼田家の父親(板尾創路)の同僚役で、人事部に所属する父親からリストラをされてしまうという役だった。

この1983年には、8月から9月にかけて、TBS系でも全6話で『家族ゲーム』は映像化された。家庭教師の吉本を演じたのは長渕剛、次男の茂之は松田洋治、父親は伊東四朗、母親は白川由美だった。松田洋治というと、今は『もののけ姫』のアシタカの声の人、みたいな覚え方をされているかもしれないが、当時は多くのドラマに出演していた有名子役だった。

この全6話の『家族ゲーム』は最終回が20%を超える視聴率を取ったこともあって、今でも茂之の役というと、映画版の宮川一朗太より、松田洋治を思い出す人が多かったりする。ていうか、映画版に松田洋治が出ていたと覚え間違いをしている人が意外と多いのも事実だ。とにかく、このTBS版の『家族ゲーム』は、その後1984年に全11話で連ドラ化され、1985年にはスペシャルも作られるほど話題になった。ただ、続編はほぼオリジナルの内容で、原作からは離れたものになっている。

こうして、最後の映像化から29年ぶりに連ドラとして戻ってきたのが、今回のフジテレビ版『家族ゲーム』というわけだ。家庭教師の吉本は櫻井翔、沼田家の長男・慎一は神木隆之介、父親は板尾創路、母親は鈴木保奈美、そして次男・茂之は、丸山隆平が主演したテレ朝系の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で脩の役をやっていた浦上晟周が演じている。
 

吉本の過去も描いているフジテレビ版

『家族ゲーム』という物語は、破天荒な家庭教師が、いろいろな問題を抱えている家族のもとへやって来る話だが、今回のフジテレビ版は、基本的にオリジナルな作品と考えていい。そもそも原作は30年以上前のものなので、受験戦争が背景にあったし、一般家庭の象徴は団地という時代の物語だった。体罰に関しても寛容で、原作では家庭教師の吉本が茂之を頻繁に殴ったり蹴ったりするし、父親もそれくらいしたほうがいいという考えで問題にはならなかった。映画でも吉本が茂之をひっぱたくシーンはある。

一方、今回のフジテレビ版では、兄弟それぞれに個室がある大きな一軒家という設定で、吉本は基本的に沼田家の人々を精神的に追い込んでいくような展開になっている。家族の問題にしても、父親が仕事で不正をしたり、母親が株で大損したりと、崩壊している家族の姿が分かりやすく描かれている。そして何よりも原作や過去の映像作品と大きく違うのは、吉本の過去やその目的が、かなりハッキリと盛り込まれている点だ。