算数や数学と聞いて苦手な顔をする人も多いだろう。高校では大学進学を目的に文系理系と分けることもあるが、「数学が苦手で文系に行った」と語る人も少なくない。また「理系だったけど数学は……」と表情が暗くなる人もいる。そのために数学の得意な人にはある種の羨望を感じてしまう人もいるだろう。長く数学は哲学と並んで、実学(社会に直接関わる実利的な目的を持った学問)とは正反対の虚学(実社会とは無縁の抽象的な学問)と言われることがある。しかしネット社会において数学が欠かせないものになったり、複雑化する現代社会において哲学が心の支えになったりしているのは、面白い現象ではないだろうか。
江戸時代の日本では“和算(わさん)”の技術が盛んだった。今の数学とはやや異なる面もあるが、当時の世界においても最先端の学問レベルにあった。数々の優れた算法書が発行された中に1775年に『算法少女』と題する一冊が出版された。実情は異なるようだが、和算の得意な少女が父親の協力を経て著した形になっている。
この『算法少女』を題材に書かれた小説が、遠藤寛子の『算法少女』である。
絵にしてみると漫画ならではの演出も加えられて、主人公のあきが可愛らしく描かれている。また学問を通じた当時の社会情勢なども垣間見られて、江戸時代の文化の一端に触れるのにはちょうど良いのではないだろうか。「女には学問は必要ない」のような風潮は、明治どころか昭和に入っても残っていた。しかし昔から能力を発揮する女性も居たはず。フィクションながらも少女あきの頑張りにはエールを送りたい。
『算法少女』を今風に表現すると“数学ガール”になるだろうか。
大きな話題にはならなかったものの、いろいろ好評だったようで、シリーズ小説を原作に、漫画の続編が展開されている。続編『数学ガール フェルマーの最終定理』が『数学ガールⅡ フェルマーの最終定理』として、コミックフラッパーにて春日旬の作画で連載中。3作目の『数学ガール ゲーデルの不完全性定理』が題名そのままに、コミックアライブにて茉崎ミユキの作画で連載中だ。どちらもコミックス1巻が発売されたばかり。作画が異なれば、キャラクターや演出も違ってくる。三者三様のミルカちゃんを楽しんで欲しい。
そして 算法少女+数学ガール÷2=数学少女 と強引に引っ張って『数学女子』(安田まさえ)を紹介したい。
大学の数学科に入って挫折しかけた内山まなが主人公。友人の3人は、ギャンブル大好きで男気あふれる渕上さえこ、酒に強くいつも冷静な酒井とも、巨乳美人でまとめ役の坂崎ゆみ、とキャラクターが揃っている。どちらかと言えば、地味ーなキャンパスライフなのだが、数学女子の大先輩もいれば、ハンサムなインドからの留学生も来て、賑やかな毎日が過ぎていく。若干の恋愛模様もあるものの、鈍かったり奥手だったりと一向に進展がない。そこは理系男子頑張れよと叫びたくなる。学年が進み、それぞれに進路を思い悩む場面も出てきたが、日本では数学の専門家が活躍できる場面は少ないようだ。そんな状況で4人の数学女子がどんな選択をするのかが楽しみでもある。
来年の1月には、モーニング娘。の田中れいなと道重さゆみがダブル主演で『数学女子学園』が放送される。日本テレビの深夜枠以外の詳細は不明ながら、「数学バトルを繰り広げる青春美少女学園ドラマ!!」なのだそうだ。
またフジテレビでは『たけしのコマネチ大学数学科』が放送されている。数学問題に、ビートたけしと東大女子学生が頭を使い、コマネチ大学数学研究会を名乗るたけし軍団が体を張って挑んでいく。バラエティー番組なのだが、数学の奥の深さにちょっとだけ触れられる感じが好評らしい。数学への苦手意識を持っている人も、コミックスにテレビにと、数学になじんでみてはどうだろうか。