6月15日に公開された日本映画『二流小説家-シリアリスト-』は、映画化決定のときから驚きの話題を数多く提供してきた本格ミステリーだ。何しろ、原作小説はアメリカの作家デイヴィッド・ゴードンの処女作にして、世界一権威のある「アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞」にノミネートされた『The Serialist』。日本でも『このミステリーがすごい! 2012年版(海外編)第一位』、『週刊文春ミステリーベスト10 2011年(海外部門)第一位』、『ミステリが読みたい! 2012年版(海外篇)第一』という、海外ミステリー部門の三冠に初めて輝いた話題の作品だ。
でも、なぜ、それほど注目の小説がハリウッドやヨーロッパではなく、日本で映画化することができたのか? そもそもデイヴィッド・ゴードンとはどういった人物なのか? そんなことも探りながら、たった1冊で一流作家の仲間入りをしたデイヴィッド氏に「一流」と「二流」の違いは何なのか? 彼の考えを聞いてみた。
映画『二流小説家』のストーリーは、舞台や登場人物の名前が日本用に書き換えられてはいるものの、大筋は原作にほぼ忠実だ。主人公は、10年前に母親の名前で若い女性向けのヴァンパイア小説を1度出版したことがあるものの、その後は雑誌にエロ小説を書いて生計を立てている売れない小説家・赤羽一兵(上川隆也/原作の名前はハリー・ブロック)。そんな彼のもとに、ある日、東京拘置所にいる連続殺人犯の死刑囚・呉井大吾(武田真治/原作の名前はダリアン・クレイ)から「告白本を書いて欲しいという依頼」が舞い込む。ところが、実際に会った呉井は「告白本を出版する条件として、自分の熱狂的信者である3名の女性を取材し、彼女たちと自分の官能小説を書くこと」を要求。赤羽はしぶしぶ呉井に言われた通り、3人の女性のもとを訪ねて取材するが、その後、彼女たちが次々に何者かに殺されてしまう。しかも、その手口は12年前の呉井の手口とまったく同じだったが、獄中にいる彼には今回の犯行は不可能。それでは誰が!? 赤羽ははからずも事件の渦に巻きこまれていくことになるのだ。
あらすじだけでも、そのドラマチックで先の読めない展開は伝わると思うが、果たして処女作だというのに、日本の文庫版で557ページにもおよぶ本格ミステリーを書き下ろしたデイヴィッド・ゴードンとはいったい何者なのか?
手元の資料を読むと、ニューヨーク在住とある。ロサンゼルスにいたときには映画業界で脚本の仕事にも携わっていたようだが、日の目を見ていない。だが、その後も映画、ファッション、出版、ポルノ産業でキャリアを磨き、男性誌『ハスラー』の編集部にいたときに目にした、囚人から送られてきた手紙が『二流小説家』のヒントになったという(実際の手紙は見本誌を送って欲しいといった類のものだったようだが……)。主人公同様、母親の名前でヴァンパイア小説を書いたこともあるようで、そうした彼の経験や好きなものが散りばめられて、初めての長編として結実したというわけだ。