砂川智役の前田公輝

 NHKで放送中の連続テレビ小説「ちむどんどん」。戦後の沖縄で四兄妹の次女として生まれ育ったヒロイン、比嘉暢子(黒島結菜)が上京し、料理人の道を目指して奮闘する物語だ。本作で、幼なじみの暢子に思いを寄せ、後を追うように東京に出てきた砂川智を演じているのが前田公輝。念願だった朝ドラ初出演に対する思いや、役に取り組む姿勢を語ってくれた。

-朝ドラ初出演とのことですが、ここまで撮影を進めてきた感想はいかがですか。

 朝ドラという大きな舞台で2クール(半年)もの長期にわたる作品に出演させていただくことで、僕自身、すごく成長させてもらっている気がします。例えば、沖縄ことばも、最初の頃に比べるとだいぶスムーズに話せるようになってきましたし。僕は6歳から芸能界でお仕事をさせてもらっていますが、まだまだ知らないことがあったなと、改めて驚いています。ベテランの役者の方々がよく「芝居には終わりがない」とおっしゃいますが、まさにそれを今、実感しているところで。念願の朝ドラだからかもしれませんが、とにかく毎日が刺激的で、真新しいことばかり。すごく楽しいです。

-智を演じる上で心掛けていることはありますか。

 僕の中には、沖縄の方は思いつめたり、気分が沈んだりすることが少ないイメージがあるんです。そこには、食べ物や環境が影響している気がして。島野菜はビタミンやミネラルが豊富でおいしいですし、透き通った海や豊かな自然など環境もいいですよね。それは、明るい太陽の下で暮らしていればこそなのかなと。僕自身、日光を浴びる大切さは以前から感じていましたし、役者の仕事は心のケアが大事なので、そういう沖縄の方の心の持ち方はすごく勉強になります。現在はコロナ禍で何かと気分が沈みがちな世の中ですが、そんなときに、そういう姿勢を見せることには意味があると思うんです。だから、智を演じる上では、みんなを元気づける“やんばるの太陽”みたいな感じを多少意識しています。

-ご自身と智に共通点を感じる部分もあるのでしょうか。

 ありますね。智の軸になっているのは、何といっても家族です。僕自身も芸能界で仕事をする上で家族が大きな幹になっているので、その点は、最初に台本を読んだときから近いものを感じていました。だから、すごく共感できますし、仕事に対する向き合い方には、憧れすら覚えます。

-では、智の魅力をどんなところに感じていますか。

 智は基本的に、他人に弱みを見せませんよね。僕の場合、悩みがあるときは誰かに聞いてもらいますが、智は恐らく、家族にさえ相談したり、愚痴を言ったりしないんじゃないでしょうか。若くして東京に出てきて、今ほど情報も簡単に手に入らない中、食品卸の会社を立ち上げて軌道に乗せていくのは、相当な苦労があったはずです。それでも、一人で頑張ってきた。そういう意味では、智の生き方にはカッコいい“男の美学”が詰まっているような気がします。

-続いて、主演の黒島結菜さんの印象を教えてください。

 黒島さんには、新しい形の座長を見ているような気がします。今までいろんな主演の方を見てきましたが、黒島さんは、常に真っ白な状態で現場にいるんです。でも、とてもフラットなので、中心にいてくれるとすごく安心できる。そういう意味では、黒島さんは幹の太い“ガジュマルの木”のような印象です。

-ところで劇中では、智は暢子を一途に思い続けていて、その恋の行方も気になるところです。そもそも智は、暢子のどんなところにほれたのでしょうか。

 いろいろありますけど、一番は、世界一幸せそうにご飯を食べるところかなと。決して裕福とはいえない暮らしを送っていた智が家業の豆腐店を継ぎ、一生懸命作った豆腐を、暢子はものすごく幸せそうに食べてくれたんですよね。これは単なる僕の想像ですが、そのとき智は、恐らくつらいことや苦しいことを忘れるぐらい、心が豊かになったんだろうなと。身近にそういう暢子がいてくれることが、智にとって力の源になった。そんな女性は暢子のほかにいなかったんでしょうね。それが一番大きな理由だと思います。

-そして、智は暢子の後を追うように上京しましたが、そのときの智の心情をどんなふうに捉えていますか。

 暢子が東京に行ってしまった後、自分にとっての存在の大きさに気付き、心にぽっかり大きな穴が開いてしまった。その瞬間、今までふたをしてきた暢子に対する気持ちが確信に変わったと思うんです。そこで、自分も東京に出て行ったものの、智は暢子を心配する比嘉家の思いも背負っているし、自分自身も夢を追う暢子をサポートしたいという思いがある。だから、自分の気持ちを伝えたいんだけど、それが夢を追う暢子の邪魔になることは避けたい。そんな感じではないでしょうか。そういう意味では、暢子がどれだけ幸せに夢に向かってまい進できるか、ということが智の行動の核にあるのかなと。

-そんな智の思いが暢子に届くのか、これからも注目ですね。それでは最後に、この作品に対する思いを聞かせてください。

 朝ドラは僕にとって憧れの場所で、どんな小さな役でもいいから出演したいとずっと思っていたんです。それが、こんな大きな役で夢がかなった。しかも、「ちむどんどん」は家族の話ですけど、僕にとっても家族は大きな存在ですし、以前、僕が初めて長期ロケに出かけたのも沖縄、その上、僕の誕生日も“シーサーの日(4月3日)”なんです。そんなふうに、この作品には不思議な巡り合わせみたいなものを感じていて、出演していることが奇跡の時間としか思えません。しかも、智という役を通じて、人間として、役者として、あらゆる面で僕自身が更新されている感覚があるんです。自分の未来がこんなに楽しみになる役と出会えたことが、すごくうれしいです。

(取材・文/井上健一)