カラーで感じるプーの奥行き
プーの挿絵は、当時の本としては珍しく、文章と挿絵が連動して構成されています。
これは著者のA.A. ミルンと挿絵画家のE.H. シェパードが緊密に連絡を取り合い作り上げたものです。
だからこそ、絵を見るだけでプーの世界観が伝わってくる原画となっています。
監修の安達まみさんに、カラー原画だからこそ分かる、シェパードの功績について伺いました。
例として挙げていただいたのは、プーが毎朝行う体操の場面。
本文には体操を行う様子しか書かれていませんが、挿絵には鏡が描かれています。
ミルンとシェパードの共同作業で、読者の想像が広がる工夫が行われているのです。
後に、シェパードがカラーの挿絵として描き直した原画が展示されています。
「クマのプーさん」「プー横丁にたった家」の合本版に掲載されているものです。
まず、合本版の挿絵に比べて、原画の色鮮やかさや線の細かさに驚かされます。
初期の挿絵がプーと鏡だけだったのに対し、カラー版では家の中の様子が広く描かれています。
絵を縦に分割し、外と中の様子の両方を描く構図です。
これは、中世の写本で使われているテクニックで、文化的背景の中にプーを位置付けています。
さらに、プーの部屋の壁紙の色と、外の空の色は同じ色です。
これにより、内と外、インテリアとエクステリアの繋がりが見え、このあと外に出かけていくプーの世界を表現しています。
プーの世界を膨らませていったことに、シェパードによるカラー原画の功績があります。
癒しの映像空間
映像インスタレーション「アッシュダウンの森のきろく」では、イギリスでこの展示のために撮影された映像を上映しています。
撮影地のアッシュダウンフォレストは、百町森(100エーカーの森)のモデルとなった場所。
作者のA.A. ミルンと息子クリストファー・ロビン・ミルンはここで暮らし、画家のE.H. シェパードも訪れてスケッチし、挿絵に活かしました。
森の景色や、その麓のハートフィールド村に暮らす人々の様子を、朝から夜に至るまで映像で収められています。
スクリーンは展示室を包み込むように配置され、音や香りまで表現。
現地の空気を体感できます。
プーの物語や挿絵がどういった空気の中で生まれていったのかを感じられる空間です。
この空間は、今の森を感じてほしいと企画されたそう。
95年前にプーが生まれた景色、60年前にカラーで描かれた景色と見てきて、現代の映像に繋がっています。
プーの世界は決して過去の郷愁ではなく、現代にも生き続けていることがわかり、「クマのプーさん」展を終えます。