「WOWOWオリジナルドラマ DORONJO/ドロンジョ」

 1977年の登場以来、何度も映像化されてきた国民的アニメ「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」。その人気キャラクター・ドロンジョの過去を新たな視点で描いたタツノコプロ創立60周年記念「WOWOWオリジナルドラマ DORONJO/ドロンジョ」(全11話)が、10月7日(金)からWOWOWで放送・配信スタートとなる。果たして、令和の時代に生まれ変わったドロンジョは、どのような姿でわれわれの前に現れるのか。後のドロンジョこと主人公・泥川七音(どろかわ・なお)を演じる池田エライザが、全力で挑んだ撮影の舞台裏を語ってくれた。

-主人公の七音がボクサーという設定で、第1話の冒頭から激しいボクシングの試合が繰り広げられることに驚きました。アクション満載のようですが、演じるに当たってどんな準備をしましたか。

 アクションシーンが盛りだくさんで、撮影はものすごくハードでした。ただ、私自身はボクサーとして当たり前のことができるように、少しでも空き時間があればミット打ちをするなど、ひたすら基礎を繰り返していました。

-とはいえ、大変そうですよね。

 スムーズにはいかなかったですね。体の中で痛くないところがなかったぐらいで。いかにボクシングに特化した体に改造できるかが勝負で、どんどん猫背になったり、普段はない肩の周りに筋肉が付いたり…。それに体が順応するまでに時間もかかりましたし。

-ボクサーという意外な設定には驚かされましたが、原典となるアニメ版と本作のドロンジョの共通点を教えてください。

 アニメ版は「ヤッターマン」という題名ながら、ドロンジョや手下のトンズラー、ボヤッキーもたくさんの方に愛されてきたキャラクターですよね。軽快なテンポやユニークさもあって、元祖“愛される悪役”というか。絶望せず、立ち上がる力、みたいなものもありましたし。今回のドロンジョ(になる前の七音)も、“立ち上がる強さ”や“生きることへの執着”といった部分は「ヤッターマン」のドロンジョに通じるものがあります。すごくダークなお話で、テンションは全然違うんですけど、仲間のトンズラーとボヤッキーもいるので、“らしい”瞬間もあって。そういう意味では、“新解釈”と思って見ていただく方がいいのかなと思います。

-主人公の七音は、傾きかけたボクシングジムを経営する父親の厳しい指導の下、アマチュアボクシングの日本代表を目指しながらも、ある事件をきっかけに人生が180度変わってしまい、徐々にドロンジョへと変貌していきます。そんな七音について、どんなイメージを持っていますか。

 今の世の中、自分の人生の選択肢に迷ったり、前に踏み出せなかったり、逆に現状を壊すことが怖かったり、絶望を感じている人も多いと思うんです。だからといって、そういう感情をフルに表現するにもすごく体力を使うので、正直になることもできず、見て見ぬふりをして生きていくしかない。そういう人たちの代わりに、100パーセント絶望し、100パーセントあがいてみせるのが七音なのかなと。そういう意味では、味方になってくれるダークヒロイン、といったイメージです。

-池田さんの力強い芝居からは、まさにそれぐらいのパワーを感じました。では、七音という役に対しては、どんなふうに向き合いましたか。

 台本と真摯(しんし)に向き合い、泥川七音の人生に自分を捧げる…。そんな感じでした。台本を読んだとき、「大変そうだな」とは思ったんです。実際、七音が正義を信じられなくなり、自分の正義観を積み上げていく第3話ぐらいまでは、精神的にもきつかったですし。でも、今を生きる人たちに、こんなに残酷な世の中でも、生きることであったり、あがくことであったり、そういうエネルギーを与えられるかもしれないと思って、全力で挑みました。

-そうすると、ご自身と七音の距離感はどんな感じだったのでしょうか。

 クランクインした瞬間からルームシェア、みたいな感じです。自分の中に、七音と私がいて、本番中だけ七音に体を貸している、という状態で。

-ルームシェアの感覚は、最後まで?

 やり切ったときにどこかへ行きました。クランクアップがリングの上だったんですけど、最後のカットが終わって、しばらく大の字になっていたら、その瞬間に七音がぴゅーっとどこかへ行った感じがして。その瞬間、全身の力が抜けて、『あしたのジョー』のラストシーンみたいになりましたし(笑)。

-完全燃焼といったところでしょうか。そんな池田さんが演じた七音と山崎紘菜さん演じる聖川愛花(後のヤッターマン2号)とのライバル関係が、物語の軸になるようですが、山崎さんとの芝居はいかがでしたか。

 愛ちゃんと七音の関係は、物語の核心に迫る部分なので、あまり言えないんです。ただ、一筋縄ではいかない2人の関係性が、最終話まで続くことだけは確かです。そういう意味では、最初はダークな話が続くので、胸が苦しいかもしれませんが、最後はすごく晴れ晴れとすると思うので、七音がダークヒロインに変わっていく姿を見届けてほしいです。しかも、私と紘菜ちゃんがだいぶ盛り上がって、台本に書かれている以上のことをやってしまったので(笑)。でも、劇中ではライバルですけど、紘菜ちゃん本人はすごくすてきな方でした。明るくて、優しくて、柔らかくて…。それだけは誤解のないように言っておきます(笑)。

-さらに、ドロンジョといえば仲間のボヤッキー、トンズラーが欠かせませんが、本作にも後のボヤッキーこと飛悟(ひゅーご)、後のトンズラーこと匠苑(しょーん)が登場します。七音がこの2人と出会うことで、おなじみの“ドロンボー一味”らしいコミカルな雰囲気も出てくるのでしょうか。

 ボヤッキー発信でそれをトンズラーが受けて、ドロンジョ(=七音)があきれている、という構図が少しずつ出来上がっていきます。その点、ボヤッキー役の矢本(悠馬)くんが、率先して3人衆の空気を出してくれたので、すごく救われました。一ノ瀬(ワタル)さんが演じるトンズラーも、サイズ感やちょっとなよなよしているところが、「トンズラーがいる!」って感じで(笑)。だから、七音がどんどんドロンジョらしくなっていくのは、トンズラーとボヤッキーの影響があるなと思って。私もあの2人を見て、「あ、これはドロンジョになるな!」と思いましたから(笑)。

-それは楽しみです。ところで、体当たりの熱演やアクションなど含め、大変な撮影だったようですが、本作での経験は、池田さんにとってどんな意味がありましたか。

 「乗り越えられるもんだな…」と、己のタフさを知りました。どんなにしんどくても、「お願いします!」と思える感じやその勢いは、すごく鍛えられました。そういう意味では、七音に影響されていたんだと思います。世の中のみんなが感じているストレスを、七音が全部背負って放り投げてくれるような気持ちにもなりましたから(笑)。

(取材・文/井上健一)

 タツノコプロ創立60周年記念「WOWOWオリジナルドラマ DORONJO/ドロンジョ」10月7日(金)放送・配信スタート。毎週金曜午後11時 ※第1話無料放送(全11話)

関連記事