NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。11月13日放送の第43回「資格と死角」では、修行を終えて鎌倉に戻った源頼家の息子・公暁(寛一郎)を巻き込み、鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)の後継者を巡る駆け引きが描かれた。
そのシリアスな物語の流れとは別に、意外な注目を集めたのが、主人公・北条義時(小栗旬)の妻・のえ(菊地凛子)だ。
義時と確執を深めていることなどつゆ知らず、都育ちの源仲章(生田斗真)にポーッとなって親しく言葉を交わす姿はまるでデートのようで、「メロドラマ」などと話題になった。
のえに関しては、当初、「キノコ大好きなんです」と偽って義時と結婚し、その素顔を知った義時の息子・泰時(坂口健太郎)に「とんでもない女子だ」とまで言わせたことから、もっと悪女的な振る舞いで物語をかき回すのかと思っていた。
だが、今のところ菊地のとぼけた演技も味わい深く、権力闘争に翻弄(ほんろう)される義時をはじめ、政子や泰時ら、他の北条家の面々とは一線を画す立ち位置で、独特の存在感を放っている。
その一方、出世欲を隠そうとしないところものえの特徴だ。これまでを振り返ってみると、「私なんか、欲が着物着て歩いているようなもんだけど」(第39回)という自身の発言や、政子(小池栄子)と実衣(宮澤エマ)の会話で飛び出した「りくさんを思い出すわね」(第40回)という“のえ評”などが印象に残っている。
確かに、夫・義時が「執権」を名乗ることを後押ししたように、のえにはかつて出世欲をみなぎらせていた北条時政(坂東彌十郎)の妻・りく(宮沢りえ)を思わせるものがある。
ただし、自らの願望を実現しようと、たびたび計略をめぐらせたりくのようなしたたかさや計算高さは、のえには見られない。
その点では第40回、大根の茎から葉と筋を取り除く作業の最中、政子と実衣から「あなた、全く取れてないではないですか」「都育ちの割には大ざっぱ」と指摘された場面は象徴的だった。
登場するたびにシビアな物語の空気を和ませることから、なんとなく“お笑いポジション”に収まっているようにも思えるのえ。だが、巧みな手綱さばきで視聴者を驚かせてきた名脚本家・三谷幸喜がそれだけで終わらせるとは思えない。
史実として、のえ(=伊賀の方)には、義時の死後、泰時を追い落として息子・政村の執権就任を図った「伊賀氏の変」や「実は義時を毒殺したのではないか?」と言われる「義時毒殺疑惑」が残されている。つまり、現在のとぼけたのえは、そこに向かって種をまいている段階とも考えられる。
だからといって、ここまでを見ていると、時政と共謀して実朝を鎌倉殿の座から引きずり降ろそうとしたりくのように、シビアな展開は想像しにくい。
だが、同時に、さまざまな出来事を傍観してきた皮肉屋の実衣が、実朝の乳母になってから変貌したように、権力欲に取りつかれていく可能性もないわけではない。
果たしてのえは今後、どんな活躍を見せてくれるのだろうか。なお菊池は、出演発表の際のコメントで、次のように語っている。
「私の中での、のえさんは、女性であることをある種楽しんでいる、素直な女性だと思います。真意を隠しているよりも、これくらいが小気味いい! 気持ちがいい! そんな印象です。それが今後どう化けるのか? はたまた特に化けずにこのままわが道を行くのか? とても楽しみでしかたがありません」
わが道を行くのえを見慣れてきた今読み返してみると、この言葉の意味がよく分かる気がする。そんな彼女が物語の最終盤をどう盛り上げてくれるのか、注目だ。
(井上健一)