上村侑 (C)エンタメOVO

 1978年、夏。高校生の栗田広志(上村侑)は『スター・ウォーズ』に影響を受け、友人の喜男(福澤希空)と共に宇宙船のミニチュアを作って8ミリカメラで撮影する。そして、文化祭の出し物として、映画製作を提案。思いを寄せる夏美(高石あかり)にヒロイン役を依頼し、喜男や映画マニアの佐々木(桑山隆太)も加えて映画製作に取りかかる。小中和哉監督が、自身の青春時代を題材に脚本を書き下ろして監督した青春映画『Single8』が、3月18日から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開される。主人公の広志を演じた上村に話を聞いた。

-前作『近江商人、走る!』は時代劇でしたが、この映画も自分が生まれる前の1978年の出来事を描いた、ある意味時代劇だったと思いますが、実際に演じてみてどう感じましたか。

 (小中和哉)監督が「時代背景みたいなものは、深く意識しなくても大丈夫」という話をされていたので、あまり70年代の雰囲気に捉われずに、いい意味で、現代劇っぽい会話のやり取りができたと思います。

-私は小中監督とほぼ同世代なので、40年前の高校生活はこんな感じだったなと懐かしく思い出しました。

 実は小中監督が高校時代に8ミリで撮った、飯ごう炊飯の映像を見させてもらったときに、自分がイメージしていた昔の高校生の像と、いい意味で違っていると思いました。自分たちの高校時代の雰囲気や友達とのやり取りと、それほど変わらなかったんです。40年前も今も、高校生のやり取りは同じようなものだということです。それが自分の中では大きなヒントになりました。それからは、70年代ということをあまり意識しなくなりました。今の子たちがスマホでやっているのとそんなに変わらないのかなと思いました。

-小中監督の演出や指導で印象に残ったことはありましたか。

 撮り方が特殊で、割と一連で動くことが多くて、基本的にせりふがない瞬間も、自分たちはしゃべっていましたし、アドリブのシーンも多くて、その場でリアルに生まれた会話もありました。だから、ドキュメンタリーを撮っているような感じがしました。それに、自分たちが劇中で映画を作っているところをカメラで撮っていたので、メイキングを撮られているような感覚もありました。芝居に関する特別な指導はなくて、「好きにやっていいよ。それをカメラに収めるから」というスタイルで撮ってくださいました。ただ、8ミリのことになると、「ここがこういう機能で…」とか「持ち方はこうで」「もう少しこうした方がいい」みたいに、指示が急に細かくなったりして、そこのこだわりは強いんだと思いました(笑)。

-先ほど話に出た「飯ごう炊飯」もそうですが、劇中に登場する小中監督の高校時代の8ミリの映像を見た印象は?

 本当に今と変わらないと思いました。もちろんフィルムの画質なのですが、今の若者言葉で言えば「ちょっとエモい」(笑)。ノスタルジックな感じがあって、現代にはないものなので、ちょっとずるいなと。当時からすれば、僕らがスマホでやっているのと同じで、もしかしたら、僕らが今スマホで撮った映像を、僕らの息子や孫が見たら、驚くかもしれません。そう考えると感慨深いものがあるし、デジタルで簡単に撮っている映像よりも、すごくきれいな思い出に見えるというのが、フィルムカメラの魅力なのかなと思います。

-手作り感満載で手間のかかる8ミリ映画の製作を実際にやってみてどう思いましたか。

 8ミリカメラについてはだいぶ詳しくなったと思います。今回はちゃんと1本の映画を作ったので、8ミリ映画製作の独特の緊張感がありました。気が抜けない感じがデジタルとは違うと思いました。撮り直しが利かないから、一発に懸ける思いが強い。何度もリハーサルをして「よし行ける」となってからでないと撮れない。編集も一コマずつ細かく見ながらやっていく。セロハンテープが何枚もくっついてフィルムがごわごわになったり…。今はパソコンやスマホが一台あればできるのに、という不便さはありますが、その不便さが、逆に作品に対する気持ちを高めたり、価値を上げているような気がします。それが、今回作っていて楽しい瞬間だったと思います。

-もちろん、普段、動画を撮ったりもすると思いますが、自分でも映画を撮ってみたいと思いましたか。

 8ミリで撮りたいかといわれれば、現像して、編集して、機材もないし…と考えると、そこまで手は出ないです。でも、役者はいつも途中からしか映画に入れないので、今回最初の立ち上げから、最後にみんなに見てもらうまでを、一連で体験できたのは、自分にとってはすごく楽しい経験になりました。実際に映画を撮りたいとは思いませんが、この作品を撮っている間は、映画や写真を自分が撮っているという感覚はありました。

-今回は、新たな発見といった感じだったのでしょうか。

 地元でおいしいご飯屋さんを新しく見つけた感じでしょうか。自分の身近にあったんだけど、その魅力に全然気付かなかったみたいな感じがしました。カメラというジャンルでいえば、すぐそばにあるし、フィルムはちょっと離れているけれど、フィルムカメラは最近はやっていて、撮る人も多いので、割と身近にあったはずなのに知らなかったみたいな。なので、それを発見したときのワクワク感みたいなものがありました。

-共演者の高石あかりさん、福澤希空さん、桑山隆太さんの印象は?

 福澤くんと桑山くんは、映画初出演で、最初はすごく緊張していたので心配していたのですが、いざ撮影が始まると、とてもやりやすかったです。休憩中もずっとしゃべっているほど仲良くなって、アドリブのシーンが多かったのですが、お互いに自然にふざけ合うことができました。また、監督からすごく自由にやらせてもらえたので、2人と一緒に、当時の高校生が盛り上がる様子をうまく作り出せたと思います。高石さんとは、以前も映画で共演したことがあったので、絶対的な信頼を置いていました。僕がどんな球を投げても、全部キャッチしてくれる感じがして、すごくやりやすかったです。

-映画の見どころも含めて、観客に向けて一言お願いします。

 実際に8ミリフィルムを使って撮ったシーンがあるので、ぜひ映画館でそれに触れてほしいと思います。あとは、4人の同世代ならではの雰囲気です。きっとどの世代であっても、同世代の方はいると思うので、「自分の高校時代もこんな感じだった」というノスタルジーを感じながら、見ていただければと思います。すごく映画愛にあふれた優しい作品なので、温かい気持ちで見ていただけると思います。また、最近、僕らの世代は、フィルムカメラに関心を持っている人が多いので、そういう意味では、「フィルムカメラって写真だけじゃないぞ」というところを感じてもらえたら面白いのかなと思います。フィルム写真の画質や色味が好きな人なら、映像も絶対好きになると思います。

(取材・文・写真/田中雄二)