1982年のソロ活動開始以来、内外のアーティストやオーケストラとジャンルを超えた共演を重ね、太鼓奏者として常に新たな世界を切り開いて来た林英哲。一昨年演奏活動40周年の節目を経て、美術家をテーマにしたシリーズの最新作を東京・世田谷パブリックシアターで初演する。これまでマン・レイ、伊藤若冲、藤田嗣治らを取りあげて来たが、7年ぶりとなる第6弾『迷宮の鼓美術少年』は横尾忠則だ。
若き日にグラフィックデザイナーを夢見て上京した林にとって横尾は「神様みたいな方なんです。スタイルを様々に変えていく表現者としての歩みや、日本的な要素をポップに表現する手法に影響を受けて来た」。これまでにCDジャケットのデザインを依頼するなどの交流があったが、美術家シリーズに取り上げるのは「いつかやりたいとは思いつつ、恐れ多いという気持ちが先立って。でも僕も還暦を過ぎましたから、新作を創造するパワーがあるうちにやらないと(笑)」と意を決して、アトリエを訪問。シリーズ初、テーマとなる美術家自身によるポスターが制作されることとなった。
コンサートは2部構成を予定。「1部は〝横尾少年〟が見た原風景を、ドラマチックに構成しようと思ってます。2部は美術家・横尾忠則のスピリチュアルな側面や、スタイルを次々と変化させていく姿をコラージュ的に。今回の出演者は僕と、英哲風雲の会のメンバーの太鼓奏者のみなんで、太鼓だけで横尾さんのカラフルな世界を表現するのに四苦八苦してます。本番までドキドキですね」と目を輝かせる。
林自身、「伝統芸能の出身でない自分は、ちょうど美術家のような気持ちで、太鼓を用いた現代的な表現を目指してきた」という。時代の先を行く前衛的な表現は、ときに周囲の理解が追いつかないこともあるが、反対に思いもよらぬ人からの絶賛を受けることも。
「以前、写真家である奥様のおおくぼひさこさんに無理矢理(笑)連れられて来た仲井戸麗市さんが『こんなことをやってる人がいたなんて!』と仰って下さったことがあります。今回のコンサートも、元々太鼓やアートに関心のある方はもちろん、どちらにも興味のない方を“目から鱗状態”にできたらとってもうれしいですね」
公演は10月30日(水)から11月3日(日)まで。チケット発売中。
取材・文:山上裕子