鶴見辰吾 (C)エンタメOVO

 理想の上司からヒール役まで幅広い役柄を演じ分け、存在感を発揮する鶴見辰吾。9月7日から上演される、Daiwa House Presents ミュージカル「生きる」では、主人公・渡辺勘治の前に立ちはだかる助役を熱演する。鶴見に同作への意気込みや俳優業への思いを聞いた。

-本作は、2018年に市村正親さんと鹿賀丈史さんのダブルキャストで日本発のミュージカルとして初演され、2020年の再演も大きな話題を呼んだミュージカルです。出演が決まった時の心境を教えてください。

 最初に「生きる」がミュージカルになるというお話を聞いた時から、どういうふうにミュージカルとして成立するのかなと好奇心と期待を込めて楽しみにしていました。初演を市村さんのバージョンで拝見して、ここまでミュージカルに合っている作品だったんだなと一観客として感動し、再演の時には鹿賀さんバージョンを拝見して、本当にすばらしい、いいお芝居だと改めて感じていたので、今回参加できることをうれしく思っています。

-原作は、黒澤明監督の同名映画です。俳優として、やはり黒澤作品には特別な思いがありますか。

 そうですね、今でこそ日本の映画監督が世界で評価される機会も多くなりましたが、今から40年前に世界的に評価が高い日本の映画監督は数少なかったですから、やはり特別でした。若い頃の私は、世界に飛び立ちたいという野望もあり、いつか黒澤さんの映画に出演できるような俳優になれたらと思っていました。1998年に黒澤さんが亡くなられて、結局、映画に出演することはかないませんでしたが、こうした形で、自分の希望が結実したということには思うところがあります。

-映画『生きる』とは違う、ミュージカルならではの面白さはどんなところにあると思いますか。

 日本でミュージカルというと、海外で作られたものを翻訳して上演することがほとんどです。私たちが演じる役柄の名前もスティーブだったりエリザベスだったり(笑)、そうした人物を日本人の僕たちが演じています。ですが、この「生きる」はわれわれの隣にいるような男性の人生がテーマですから、非常に身近です。もちろん、描いているテーマは普遍的で、誰にでも共感しやすい。きっとミュージカルを初めてご覧になる方にも楽しんでいただける作品だと思います。

-今回、鶴見さんは助役を演じますが、現状ではどのように演じたいと考えていますか。

 初演、再演で助役を演じていた山西惇さんが作り上げた、かわいらしさやユーモラスな面がある助役を踏襲しつつ、自分なりに演じたいと思います。私はこの作品には、根っからの悪人はいないと思うんですよ。みんなが生きるのに精いっぱいだっただけだと思うんです。助役は渡辺勘治の夢に立ちはだかる存在ですが、彼の夢が大きければ大きいほど、その夢が切実であればあるほど、私の役が大事になってくると思うので肝に銘じて演じていこうと思っています。

-今作の助役も主人公の敵役ですが、鶴見さんが演じた「TOKYO MER~走る緊急救命室~」の久我山秋晴役もその存在感で話題となりました。敵役を演じるときの面白さはどんなところに感じていますか。

 人間は、通り一辺倒ではなく、さまざまな内面を持っていると思います。敵役というのは、そうしたさまざまな内面の中から「本当はこんなことを言ったら嫌われるだろうな」とか「人間社会においてこの態度を取ったら転落してしまうよな」という危ない行動を選びとって実践します。なので、自分ではできないことを役としてできるという面白さはあります。助役は今でいうパワハラを行って周りを苦しめますが、そうした普段は自分でできないことを、役の上でやれるという自由さは敵役の面白さだと思います。

-45年以上にわたって俳優として活躍されている鶴見さんですが、そうした活動の原動力はどこにあるのですか。

 人との出会いだと思います。俳優は、人間と人間の関係性において成立する仕事です。人間同士がぶつかり合って、協力し合って作品が作られていくので、必然的に人と出会うことが大事な仕事だと思います。私は、そうした中で、非常に周りの人に恵まれてきました。それが、この仕事を長い間続けられた1番大きな要素だと思います。共演者であったり、スタッフであったり、応援してくれる方であったり…そういう方たちがいるから続けてこられたんだと思います。

-鶴見さんにとって、「演じること」とは?

 かねてから私は、俳優は料理の素材みたいなものだと思っています。いかに自分の調理の仕方を提供できるかだと思うんですよ。例えば、塩コショウで焼いただけでおいしい人もいる。それは石原裕次郎さんのような、いわゆるスターと呼ばれる人です。でも、そうした人ばかりではないので、おいしい料理になるまでのプロセスが必要なわけです。脚本というレシピがあって、監督や演出家という料理人がいて、時間をかけて調理してできあがる。そして、それをお客さんが食べる。作るのにはすごく時間もかかりますが、結局は味なんて好みなので、合わないことをくよくよしても仕方ない。ただ、良いレシピで調理されたいし、おいしかったと言われたいとはもちろん思います。この「生きる」や「TOKYO MER」は、やはり多くの人に愛されるレシピ(=脚本)であり、愛されるような料理の仕方をしていますので、多くの人が好きな作品なのだと思います。

-劇中で、渡辺勘治は人生最後に公園を作ろうと奮闘しますが、鶴見さんは人生をかけてこれだけは成し遂げたいと思うものはありますか。

 ゴルフが趣味なので、死ぬまでにはベストスコアを更新したいなと思っています(笑)。それから、俳優は人を幸せにする仕事だと思うので、なるべく多くの人に、希望や夢、うれしさや喜びを与え続けたいです。生涯現役で、それこそ舞台の上で死にたいという言葉をよく聞きますが、まさにその通りだと思います。立ち止まらず、歩き続けていたいというのが、この「生きる」に通じる僕のテーマです。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 Daiwa House Presents ミュージカル「生きる」は、9月7日~24日に都内・新国立劇場 中劇場、9月29日~10月1日に大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演。

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