(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

『こんにちは、母さん』(9月1日公開)

 大会社で人事部長を務める神崎昭夫(大泉洋)は、職場では常に神経をすり減らし、家では妻との離婚問題や大学生の娘(永野芽郁)との関係に頭を抱える日々を送っていた。

 ある日、久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす実家の足袋屋を訪れた昭夫は、母の様子が変化していることに気付く。どうやら母は恋をしているようなのだ。

 実家にも自分の居場所がないと感じて戸惑う昭夫だったが、隣人たちの温かさや、母との新たな触れ合いを通し、次第に自分が見失っていたものに気付いていく。

 山田洋次監督が、永井愛の同名戯曲を映画化。現代の東京・下町に生きる家族と隣人が織り成す人間模様を描く。寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOUらが助演。

 本作は、同じく山田監督と吉永主演の『母べえ』(08)『母と暮せば』(15)に続く「母三部作」の3作目に当たり、初の現代劇となった。

『男はつらいよ』シリーズをはじめとする、山田監督お得意の“下町人情もの”で、家族、親子、仕事、老人、ホームレス、戦争体験といった、さまざまなテーマを盛り込んではいるが、その描き方に今の時代とのズレが見られ、せりふやギャグが空回りするところもある。とはいえ、90歳を超えた山田監督に、かつての諸作に見られたような時代に対する鋭敏さを求めるのは無理というもの。

 むしろ、そのズレを楽しみ、老齢者から見た今の社会や主張、あるいは理想像という視点で見ると、この映画の魅力が浮かび上がってくる。大泉も「今の笑いじゃないのかもしれないけど、それが逆に新鮮だった」と語っている。

 また、大泉が「吉永小百合から大泉洋は生まれない」とコメントしていたが、違和感なく親子に見えるところが、“山田演出の妙”といえるのではないかと感じた。

大泉によれば「監督自身のお母さんへの思いが反映されている」とのこと。その意味では、「母三部作」は山田監督自身の“母恋もの”といえるのかもしれない。

 何より、山田監督が「意識している」と語るクリント・イーストウッドもそうだが、90歳を超えてなお、これだけの映画が撮れること自体が驚きに値する。

『ホーンテッドマンション』(9月1日公開)

 医師でシングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)は、ニューオーリンズの奥地に建つ不気味な洋館「ホーンテッドマンション」を破格の条件で手に入れ、9歳の息子のトラビスと共に引っ越してくる。ところが、一見豪華なマイホームで、2人は想像を絶する怪奇現象に何度も遭遇することになる。

 そんな親子を救うため、超常現象専門家のベン(ラキース・スタンフィールド)を筆頭に、神父のケント(オーウェン・ウィルソン)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、歴史学者のブルース(ダニー・デビート)という、個性的で癖が強いエキスパートが集結し、館の謎を解き明かそうとするが…。

 ディズニーランドの人気アトラクションを実写映画化。999人のゴーストが住むという呪われた洋館で暮らすことになった親子と、怪奇現象の解明のためやってきたエキスパートたちが、ゴーストたちと繰り広げる攻防をコミカルに描く。

 監督は、カリフォルニアのディズニーランドでキャストとして働いた経歴を持つジャスティン・シミエン。ジェイミー・リー・カーティスとジャレッド・レトが奇怪な役で助演している。

 過去にエディ・マーフィ主演作(03)があったが、これは全くの別物。館やゴーストの謎解きと並行して、それぞれの登場人物が抱える悲しみや喪失感を、チームワークを通して克服する様子が描かれる。

 当初監督が予定されていたギレルモ・デル・トロの脚本が、「暗過ぎる、怖過ぎると」され、デル・トロは降板したという。

代わって脚本を書いたケイティ・ディポルドと監督のシミエンが、いかにもディズニー印らしい、心温まるファミリー向けの映画として仕上げ、自分のようにアトラクションを体験したことがない者でも楽しめる作品とした。ディズニーランドで働いた経験が生かされたに違いない。

(田中雄二)