佐藤二朗 (C)エンタメOVO

 ニューヨークを舞台に、カメの忍者4人組の活躍を描き、コミック、ゲーム、アニメ、映画など、さまざまなメディアで根強い人気を誇る「ミュータント・タートルズ」。アメコミタッチの新たなビジュアルで映画化した長編アニメーション『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』が9月22日から全国公開される。本作の日本語吹き替え版で、4人組と敵対するスーパーフライを演じた佐藤二朗に、映画や吹き替えに対する思いを聞いた。

-今回のオファーが来た時の心境を。

 ありがたいことに、声優の仕事は何度目かになります。それでこれは何回も言っているんですけど、俳優の仕事は割と子どもに見せられないような年齢制限が付くものが多い。監督をした『はるヲうるひと』(21)も、主演した『さがす』(22)も年齢制限が付いたので、子どもには見せられなかったんですけど、アニメなどの声優の仕事は子どもと一緒に劇場に見に行けます。今までも一緒に見に行っているので、「また息子と行けるな」って。最初はそう思いました。

-では、演じるに当たって、子どもが見るからという意識はありましたか。

 それはあまりないです。というか、当たり前のことですけど、声優は俳優とは別の難しさがあるので、それを思う余裕がなかった。付いていくのに精いっぱいだったというところです。今までやってきた、アニメの吹き替えもそうだけど、大人も楽しめるような作品ということを考えながらやっていますから、子どもが見るからということは特に意識していないです。ただ、(レオナルド役の)宮世(琉弥)くんもこの間イベントで言っていたけど、やっぱり「うー」とか、リアクションの声が大変なんです。特に息遣いは戦うシーンなどがあるので。声優をやるときは、これを声だけで表現するのはなかなか難しいといつも思います。

-スーパーフライのキャラクターについてどう思いましたか。

 非常に人間に恨みを持っていて、人間を支配しようとたくらんでいるんです。例えば、ドッグショーとか、動物園で動物をおりに入れるとか、人間が動物にしていることの逆のことをしようとしている。それで「人間が動物を扱うように俺たちは人間を扱う」みたいなことを言うシーンがあるんです。やっぱり、こういう作品は、善と悪がいて、その両方の言い分に利がある方が深みがあっていい作品になると思います。そういう意味では、スーパーフライは、もちろん傍若無人で、強引に人間を支配しようとしているから、とんでもないやつなんですけど、確かに、動物側がそう思うようなことを人間がすることもあるんじゃないかなと、ちょっと自省を促されるところもあります。だから、スーパーフライが言っていることも、全部間違いではないという感じがするんです。ミュータントになったのだって、人間の意思なわけですから、自分が好きでなったわけじゃない。人間界になじめるんじゃないかと思って一度外に出たけど、ひどい目に遭うというような悲しい過去もあったりしますしね。

-スーパーフライは、タートルズにとっては悪役ですが、悪役を演じることで何か気を付けたことはありましたか。

 特に気を付けたことはないです。ただ、これは俳優仲間でも割と同じ意見を言う人が多いんですけど、やっぱり悪役は面白いです。やっていて面白い。すごく感じの悪いやつとか、ドロドロの内面を持っているやつとか、ものすごい野心を持っているやつとか、そのためには人なんて簡単に蹴落とすとか。そういう役をやるのは面白いです。やっぱりちょっと普段の生活とはかけ離れたことできるからですかね。まあ、それが、演じる仕事のある種の特権の一つでもあるじゃないですか。普通だったら怒られそうな人とか、後ろから刺されそうな人ができる。それは楽しいです。

-オリジナルのアイス・キューブの声も聞いたんですよね。いかがでしたか。

 スーパーフライは、明らかに彼を想定したキャラクターだから、登場シーンも、ラップみたいな感じで出てくるんです。でも、そこはあまり意識せずに、僕は僕でと思ってやりました。

-この映画は、とてもアメリカ的な会話が印象的ですが、特に「あーアメリカ的だな」と思った部分はありましたか。

 それは絶対あるんですよね。やっぱり、ベーシックは英語で作られているので。極端な話、キャラクターの口調や表情も、英語のものなんです。でも、それで思い浮かぶのは、『Mr.Boo!ミスター・ブー』などを吹き替えていた広川太一郎さんという声優さんのこと。『キャノンボール』(81)では、「ミスター・ブー」のマイケル・ホイと「007」のロジャー・ムーアの両方をやったすごい人です。広川さんのマイケル・ホイは、オリジナルへのリスペクトは大いに持ちつつも、マイケル・ホイ本人より面白いかも?と思える時があるんです。駄じゃれも含めてむちゃくちゃなことを言っている。僕は子どもの頃、それがすごく好きでした。だから、おこがましいにもほどがあるんだけど、声優をやる時は、いつも広川さんのことがちょっと頭に浮かぶんです。今回も、やっぱり英語を基準に作られているから、そこは超えられないところもあるので、広川さんのことを思い浮かべました。子どもたちに広川さんのように思われたらいいなという気持ちも少しあります。

 僕の世代だと、例えば、アル・パチーノは野沢那智さん、ジェームズ・コバーンは小林清志さん、「刑事コロンボ」のピーター・フォークは小池朝雄さん…。小池さんの声じゃないとコロンボを見た気になりませんという人がいる。僕は、中学生ぐらいの時にピーター・フォーク本人の声を聴いて驚いた記憶があるんです。それまでは、コロンボの声は小池さんだとばかり思っていたから。当時は、テレビでやる洋画は吹き替えだったので、そういう現象が生まれたわけです。

-タートルズの4人についてはどう思いましたか。

 映画を見終わる頃には、老若男女を問わず、4人のタートルズが好きになると思うんです。まず第一に4人の関係性や役割分担みたいなものが面白い。4人が作る空気感も単純に笑える。でも、彼らは普通のティーンエージャーとして高校に通いたいという夢を持っていて、真面目でひたむきに生きている。だから、観客に愛される要素が詰まっていると思います。自分と同じだと思う人もいるだろうし、若かったのは昔の話だけど懐かしいと思う人、かわいいなと思う人、いろんな感想を持つ人がいると思います。

-完成版を見た印象を。

 宮世くんと齊藤(京子)さんは声優初挑戦ということだったんですけど、この2人がものすごくキャラが合っていた。変な欲がなくて素直なんです。宮世くんがやった役は10代のカメ。齊藤さんがやったエイプリルは高校生で記者を夢見ているから、すごく声を張っていました。その素朴さがとてもよかったと思いました。だから僕は自分の声よりもそっちの方がすごいなと思って見ていました。

-最後に観客に向けて一言お願いします。

 本当に、年齢を問わず、子どもも大人も年配の方も、それからもちろん性別も問わず、いろんな人が満足できる時間になると思うので、 お友達同士で行ってもいいし、家族と行ってもいいし、カップルで行ってもいいし、1人で行ってもいい。どの組み合わせも全部オッケーだと思うので、 ぜひ皆さんに楽しんでもらえればなという感じでございます。

(取材・文・写真/田中雄二)