林遣都(ヘアメーク:竹井 温 (&'s management)/スタイリスト:菊池陽之介)と上野樹里(ヘアメーク:清家いずみ/スタイリスト:古田千晶) (C)エンタメOVO

 ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。週刊誌記者の笹は、スクープを狙ってX疑惑のある良子に近づく。2人は少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生えるが…。疑われる女と真実を探る記者を巡る異色のミステリーロマンス『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日から新宿ピカデリー他全国ロードショー公開される。本作でヒロインの良子を演じた上野樹里と週刊誌記者の笹を演じた林遣都に話を聞いた。

-最初に脚本を読んだ時の印象と、実際に演じてみて感じたことを。

上野 私は原作を読まずにニュートラルな状態で、フレキシブルな視点でいられるようにしました。良子はちょっと柔和な感じの女性で、最初はもっとミステリアスな感じだったんですけど、それをもう少し日本人のいいところと不器用なところが感じられるような女性像にしていきました。脚本がちゃんとしていて、イメージがあったので、演じる時も、「やっぱりなんかちょっと違うな」みたいなことはなく、スムーズにできました。

林 本当に、今の時代にぴったりな映画だなと思いました。(熊澤尚人)監督が、日々届けたいと思っていること、世の中に対しての願いや訴えみたいなものをすごく感じました。自分も「こんな人間関係を築けたらいいな」とか、「こういうことを心掛けて生きていきたいな」と思えることばかりでした。この作品を通して、そうしたことをたくさんのお客さんに伝えられるという意味で、すごくやりがいを感じました。あとは「これは監督の実体験では…」というようなせりふややり取りが、良子と笹とのラブの部分で出てくるんですが、それが全部、ささやかな幸せの描写で、今はそういうことにいかに目を向けられるかということが、生きる上で大切になっているのではと思うので、そういうシーンがたくさんあって、すごくすてきだなと思いながら脚本を読んでいました。

-この映画はXを通して、恐怖心や情報について考えさせるところがありますね。

上野 本当は100人の人がいたら、ある人が言ったことに対する感じ方は全員違うはずなんだけど、例えば、影響力のある人とかが言うと、みんな「そうだ」って思っちゃうかもしれませんよね。ニュースなどで人の恐怖心や不安をあおると、フェイクかもしれないことでも心が動かされて、無意識に行動にも変化が出てくるかもしれませんよね。でも、良子と笹の関係は、恐怖心を克服して絶妙なバランスでラブストーリーに発展していく。良子の世の中の見え方が笹を通して変わっていくので、その変化を楽しんでもらいたいなと思います。

林 僕は自分自身をしっかり持っていればいいんじゃないかと思います。僕はどちらかというと時代に置いていかれているタイプなんですが、でも、それが好きで、それが幸せだって自分が思えればいいと考えています。情報に振り回されないようにはしていますけど、SNSやネット社会の中で情報が入って来過ぎて、判断基準がおかしくなってきますよね。でも、そうではなかった時代をギリギリ知っている年齢なので、恋愛でもそうですけど、やっぱり、放課後に呼び出し、呼び出されの告白タイムとか、すてきじゃないですか。そういうのを知っているからこそ、取り残されているというよりは、戻りたいものがたくさんあると感じています。

上野 情報が増えた分、取捨選択をする必要がありますよね。最新情報をたくさん詰め込むと、今自分が何を大切にしたいのか見失いそうになる瞬間もあるんじゃないかな。林くんは、自分のことをちゃんと知っていて、自分が今どういうふうに感じていて、何をしたいかという心の声にしっかりと耳を傾けられる人だから、お芝居でいろんな役をやる上でも、自分というものを持って、そこに魂を入れることができるんだと思います。だから、今自分が何をやりたいのかを考えて、情報を捨てる勇気とか、情報を入れない勇気とかが必要になると思います。自分というものをそれぞれの人が持って、それをお互いが認め合えればいいんじゃないかなって。みんなと一緒である必要はないと思います。

林 多分、この仕事をしているからということもあると思いますが、やっぱり人を知らなきゃいけないし、人と触れ合って、いろんな感情を生活の中で経験しなければいけないというのが自分の中にはあります。

-今回は、メタファーというか、SFの形を借りていろいろな問題を提示するというタイプの映画だったと思いますが、こういう映画についてどう思いましたか。

上野 やりがいを感じられるところはありますね。やっぱり「今の世の中ってどうなんだろう」ということを、こういう映画の世界を通して、いったん社会からちょっと離れた世界の中に突入して、映画館を出た時に、自分というフィルターをかけて、「もしかしたらいろんなことを考え過ぎていたのかな」「あのことはどうだろう」「自分が今思っていることはどうだったんだろう」というふうに、自分と向き合うきっかけにしていただければと思いますし、ラブストーリーやミステリーとしてはもちろん、実は社会派的なところも、ご覧になった方が、何かしらの今の世の中をどう生きるのか、自分なりの意味を見いだしてもらえたらと思います。

林 見ていただいた方にはそれぞれに感じるポイントがあると思いますが、SF的な要素を用いることで、作り手の強い主張がなくなるところがいいですね。固定観念を押し付けるのではなく、見た人が自由に解釈して、何かと置き換えて考えてみるとか。見る人に委ねる部分を感じます。

-良子の「心で見ることが大切なんだと思うんだ」というせりふがあって、それが『星の王子様』の朗読とも重なってきます。あの言葉がこの映画のテーマの一つかなと思ったのですが…。

上野 そうですね、最初はちょっと違う文章を朗読する予定だったんですけど、現場で、スタンバイ中にその本を読んでいて、とても大切なメッセージになる一文を見つけまして。監督にすぐ伝えて撮影に取り組みました。普段生きていて当たり前にそばにあるもの、失って気付くかけがえのないもの、大体目には見えない感覚的な物事だったりしますよね。大好きな居場所とか、居心地とか、安心感とか温かさとか。大変な目にあって初めて自分の気持ちに気付けたりする。良子は口数が多い方ではありません。でも、大好きな本を読んでいる、何げないシーンから、人として失ってはいけない、良子からの大切なメッセージを感じとっていただけたらと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)