桜井画門氏の大人気コミックを佐藤健&綾野剛共演で実写映画化した『亜人』。決して死なない新人類“亜人”となった青年・永井圭と、同じ“亜人”でありながら人類に敵対するテロリスト佐藤の戦いを、迫力のアクション満載で描いた作品だ。メガホンを取ったのは、『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、数々の大ヒット作を送り出してきた本広克行監督。4月18日のDVD&Blu-ray発売を前に、映画製作の舞台裏を聞いた。
-この作品の監督を引き受けた理由は?
オファーを受けて送られてきた原作本が積んであるのを、中学生だった子どもたちが見て「『亜人』やるの?」と言ってきたんです。聞いてみると「面白い」ということだったので、この子たちが喜ぶものを作るのもいいなと思って引き受けました。
-お子さんの言葉が後押しに?
そうです。当初はターゲットが見えず、誰に向かって作ったらいいのか悩んだのですが、これをきっかけに「子どもたちが見られるアクション映画に」と。それから(佐藤)健くんや綾野(剛)くんの出演が決まったので、「女性が見ても面白い映画に」となっていきました。
-その段階で、台本は完成していましたか。
台本はありました。ただ、設定を説明する部分がすごく長かった。もっと展開が早い方がいいと思ったので、かなり削って、主人公の圭が危機に陥っているところからスタートさせました。原作には静かな場面もあるのですが、映画ではそういった部分は圭と佐藤の会話に絞って、それ以外は動きのあるシーンでつないでいくように心掛けて。上映時間の問題もありますが、会話ばかりだと子どもたちが飽きてしまいますから。小学生にも見てほしかったので、R指定やPG指定を受けないようにも気を付けました。
-『亜人』は、この映画の前にアニメ版(テレビ&劇場版)が製作されています。映画を作る上で、影響は受けましたか。
参考にした部分もありますし、アニメがあったおかげで、いろいろと発想を膨らませることができました。この作品でまず悩んだのが、IBM(亜人が使う分身のような人型の物体)をどうやって映像にするかということ。一から作るのはかなり大変です。そこで、以前から知り合いだったアニメ版を制作したポリゴン・ピクチュアズの社長に相談してみたら、アニメ版のCGデータを借りられることになって。そのデータを基に、IBMを作っていきました。これがなければ、とてもスケジュール通りにはできなかったでしょう。
-主人公の圭を演じた佐藤健さんは、自ら意見を出すなど、積極的に関わったようですね。
よく覚えているのは、長い会話を簡素化した台本を自分で作って「監督、これどうですか?」と持ってきたとき。読んでみたら、よくまとまっていたので、ちょっと感動しました。即、採用です。健くんは、運動神経が抜群で、とてもクールな反面、心に熱いものを秘めている。そこが魅力です。集中しているときは、次のせりふをもっと良くするにはどうしたらいいのかを考えているし…。撮影中はほとんど雑談をしない人ですが、『踊る大捜査線』の深津絵里さんのファンだったらしく、『踊る…』の話をいろいろ聞かれました(笑)。
-圭と敵対する佐藤を演じた綾野剛さんも熱演でした。
原作の佐藤は、初老だけど脱いだらすごい筋肉質というキャラなので、綾野くんはパーソナルトレーナーを雇って、4カ月ぐらい体作りをしていました。その上、アニメ版で大塚芳忠さんが演じた声もトレースして。あまりに似ていたので、驚きました。キャラクターを作る上で、そういう要素を全部取り込むようですね。
-お二人の印象は?
仕事をしたのは今回が初めてですが、2人とも体がものすごく動いて性格もいい。その上、作品第一主義で「自分がこうだから」という発言がない。それがすごいですよね。誰でも自分を良く見せたいのが当たり前だと思うんですけど、そういうことは一切ありませんでした。まったく新しいタイプの役者さんだなと。大したものです。
-下村泉役の川栄李奈さんも、今までと違った役柄で印象的でした。
川栄さんはアイドルで鍛え上げられただけあって、本当に器用。せりふもNGなしで、的確に言えるタイプで。アクション練習でも、最初は戸惑ったようですが、ダンスの振り付けを教えるように指導すると「腕に飛びついて腕ひしぎ逆十字を決める」みたいなこともきっちりできる。彼女の役は原作のイメージを大事にして、男たちの中に1人だけ小さな女性がいるという異物感を出したかったのですが、それも的確に表現してくれました。
-近年はコミックを原作にした映画が人気ですが、本広監督がコミックを映画化する際に重視する点は?
映画の企画は出版社や映画会社など、いろいろなところから話が来ますが、僕はそれがどこから来たのかを見極めて、まず状況を把握するようにしています。次に、原作者に会わせてくれるようにお願いする。会えない方もいますが、会えた場合は仲良くなって、描いたときの思いを聞きます。「この部分が気に入っているんです」と言われたら、「じゃあそこを大事に撮ろう」と。だから、大抵の原作者の先生とは仲がいいです(笑)。
-原作者の思いを大事にするわけですね。
そうです。その一方で、プロデューサーが台本を作っているので、原作者の方の思いを踏まえた上で、ネゴシエイトしてまとめていく。そろった食材で料理を作る料理人みたいな感覚です。逆に「監督の自由にやってください」と言われて、本当に自由にやろうとしたらまず通りません。
-最後に、DVD&Blu-rayの見どころを。
僕自身、特典映像を見るのが好きなので、撮っているときから「カットされるだろうな」というシーンも、特典に入れることを意識して作っていました。僕らが映画学校に通っていた頃は、映画がどうやって作られたのかを本で読み解いていましたが、今はそれが特典映像で見られるので、恵まれていますよね。だから、いつも大事に作っています。今回は、健くんと綾野くんと城田(優)くん川栄さんとプロデューサーと僕が、映像を見ながらしゃべったビジュアルコメンタリーも収録していますが、現場の雰囲気がかなり再現されているので、そこも見どころです。
(取材・文・写真/井上健一)