
レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ監督が5度目のタッグを組んだ新作映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』が日本でもヒットを記録している。本作はウォール街で圧倒的な富を手にし、破天荒すぎる人生を歩んだひとりの男が主人公だが、彼に憧れ、行動を共にし、彼の“共犯者”になる男たちも多数登場する。そのひとりがジョナ・ヒル演じるドニーだ。
本作は、20代で証券会社を設立して億万長者になるも、証券詐欺の違法行為で逮捕された実在の株式ブローカー ジョーダン・ベルフォートの回顧録を映画化したもの。ディカプリオが“ウォール街のウルフ”ことジョーダンを、コメディ映画で一躍注目を集め、『マネーボール』の演技でオスカー候補になったヒルがジョーダンの相棒ドニーを演じ、軽妙で狂気に満ちた掛け合いを繰り広げながら、金を湯水のように使って遊び、ダマし、ムチャの限りをつくす。その姿はとにかく笑えるが、同時に底知れぬ恐怖も感じる。「それこそがスコセッシの素晴らしいところだよ」とヒルは語る。「人間がとんでもない悪事を働く。そのバカらしさにみんな笑うんだと思う。でもよく考えてみてほしい。ここで描かれていることは“実際に”起こったんだよ。それはとても恐ろしいことだと思うんだ」。
ヒル自身は穏やかで優しい人物だが、熾烈な映画業界で彼が見た人々の姿も役作りに生かされたようだ。「社会の中で人を傷つけたり、道徳を捨ててでも富がほしい人間、自分の衝動を抑えることができない人間をこれまでにたくさん見てきた。そこは参考にしたよ。映画の中にダマされた人、金をまきあげられた人が出てこないのは製作者たちが意図したことだと思う。ベルフォートは自分の存在を他人に“売りつける”男だ。悪いことをしているなんて思っていないし、むしろ彼は“買われる側”だとさえ思っている。だからこの映画にはダマされる人々が登場しないんじゃないかな」。
ベルフォートもヒルも罪悪感をまったく感じることなくゴミクズ同然の株を売りつけ、市場を操作し、稼いだ金をバカ騒ぎのために費やす。興味深いのはこれらの悪行がベルフォート単独で行われていたのではなく、数百人単位の組織で行われていたことだ。ドニーも彼の仲間も、昨日入った新入社員も瞬時にしてベルフォートと同じように乱痴気騒ぎを繰り広げる。これはひとりの男の半生を描いた映画ではない。欲望を抑制できなくなる“仕組み”を描いた作品だ。「その通り! スコセッシ監督は人が悪いのではなく“システム”が悪いんじゃないか? と問いかけているんだ。もしかしたら僕たちの中にも“悪”は潜んでいるのかもしれない。だから映画を観終わったら、お茶でもしながらみんなで語り合ってみてほしいね」
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
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