ザック・スナイダー監督 (C)エンタメOVO

 巨万の富と強大な軍事力を持つ帝国マザー・ワールドが支配する銀河。過去を捨てたコラ(ソフィア・ブテラ)は、宇宙の辺境にある小さな惑星の平穏な村でひそかに暮らしていた。しかしある日突然、帝国の軍勢が村を襲撃。コラは村人たちを守るため、そして自身の過去と向き合い償うために立ち上がることを決意する。

 ザック・スナイダー監督が構想に20年以上を費やして完成させたSFスペクタクル2部作の第1部『REBEL MOON - パート1:炎の子』が、22日からNetflixで世界独占配信スタートとなる。配信に先駆けて来日したスナイダー監督に話を聞いた。

-監督は自ら撮影も兼任しますが、人に任せるのと自分で撮影をするのとでは、どういう違いがあるのでしょうか。

 最近は、カメラマンとして撮影もしていますが、もともとコマーシャルの仕事を12年間していた時は、監督兼カメラマンでした。だから、両方の仕事は一つだと自分では感じていましたが、大作を手掛けるようになるに連れ、そうした自分の手で作っている感覚からは遠ざかりました。今は、テントが立てられ、そこにモニターがあって、スタッフの動きもよく見えないし、俳優にも大きな声でなければ話し掛けられません。それでモニターを見ながらやっていると、自分の映画なのにちょっと遠くなったような気がしたので、撮影してみたら、自分の映画を作っているという感覚が戻ってきました。だから、今回もやりたいと思いました。

-今回はコラが主人公でしたが、彼女以外のキャラクターもとても魅力的でした。スピンオフのようなものを作る予定はありますか。

 シリーズとして話が出ているのが、今回のラスボスのバリサリウスです。彼がどうして宇宙の「キングダディ・バッドガイ」になったのかを描くという話は出ています。それは、パート2を見た後で、多分皆さんも興味をかき立てられる話題ではないかと思います。彼のオリジンストーリーはまるでナポレオンのようです。移民的なバックグラウンドを持ち、それが皇帝になっていくみたいな。そういう話ができるかもしれません。

-次の質問をする前にちょっと聞きたいのですが、監督によっては、影響を受けた作品を聞かれるのを嫌がる人もいますが、監督はいかがですか。

 それはうそです。監督が影響を受けたと言いたくないというのは、多分うそ(笑)。突然穴から出てきた天才みたいな人はいませんから。

-では遠慮なく聞きますが、今回の映画は『スター・ウォーズ』(77)の影響を強く感じさせますが、もともと『スター・ウォーズ』は黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(58)の影響を受けています。それと同じように、今回は『七人の侍』(54)の影響が大きいと感じましたが。

 その通りです。この映画を見れば、皆さんもお分かりになると思います。それで、自分がどんなふうに進化してきたかと言えば、やっぱりアメリカ人である自分が最初に触れたのは西部劇のアイコンである『荒野の七人』(60)で、その後、日本の『七人の侍』がベースになっていることを知って、文化的な覚醒というか、概念やアイデアには普遍性があるというシンプルなことに気付いたんです。今回もオリジンではありませんが、物語の背骨の部分、核の部分を作るとしたら、それは『七人の侍』なのかなと思いました。そもそも多くの映画作家が、あの映画から影響を受けています。僕たちもそういったことを十分に意識した上で、あえてこういう形にしました。

-『七人の侍』の設定を宇宙に置き換えた『宇宙の7人』(80)という映画もありました。

 そうですね。例えば、『スターブレイザーズ=宇宙戦艦ヤマト』は、今回の宇宙船の形などにも影響しているし、いろいろなところにそうしたものは感じられると思います。そもそもこの映画は、自分を形成してくれたさまざまな映画へのラブレターなんです。哲学的な、映画的な視点からこの作品を見るのであれば、そういう作品だと。僕の美的感覚を養ってくれたさまざまな映画へのラブレターなんだというふうに見てくださればいいと思います。

 昨日の会見でも、『スター・ウォーズ』から『ブルーベルベット』(86)まで、自分に影響を与えてくれた作品名を挙げましたが、77年から87年の10年間が、やっぱり自分の土台になっているんです。例えば『エイリアン』(79)から『エイリアン2』(86)、それから『ブレードランナー』(82)…。特にジョン・ブアマン監督の『エクスカリバー』(81)が大好きで、僕のどの作品にも強い影響があります。神とかではなく、哲学的な、神話学的な形で影響が出ていると思います。

-最近のスーパーヒーロー映画は、上映時間がどんどん長くなっていますが、監督は以前から、長い時間で物語を描くことをしてきました。今回も2部作ですが、ストーリーと上映時間との関係について監督の中でも変化はありますか。

 ストーリーが必要としているものが映画の尺になると思いますが、関係性や感覚が変わってきているところもあるかもしれません。この作品は、基本的に4時間の映画を2部に分けているだけだと考えてもらっていいし、この夏リリースされるものは、2本とも3時間なので、トーンも全然違います。ご存じだと思いますが、規制の問題で、バイオレンスとかセクシャルな部分がカットされています。もともとは雑誌に載っていたものが基になっていて、それに寄っていくようなトーンでした。だから、全然トーンが違って、より幅広い観客に見てもらえるようなものになっています。

(取材・文・写真/田中雄二)