北原里英〈ヘアメイク:熊谷美奈子 スタイリスト:山田梨乃〉(C)エンタメOVO

 元AKB48のメンバーで、現在は女優として活躍するほか、昨年は作家デビューも果たした北原里英。彼女が新たに挑んだのは、全編台本なしの即興劇(=アドリブ)で繰り広げられる異色ミステリーだ。推理小説の登場人物となった参加者が、話し合いながら事件解決を目指す話題の体験型ゲーム「マーダーミステリー」。そのシステムを応用した『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』が、2月16日から全国公開となる。劇団ひとり、木村了、犬飼貴丈、文音、松村沙友理、八嶋智人、高橋克典ら豪華キャストの中から殺人事件の犯人を捜す先読み不可の物語。そのユニークな撮影を通じて彼女がつかんだものとは。

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北原里英〈ヘアメイク:熊谷美奈子 スタイリスト:山田梨乃〉(C)エンタメOVO[/caption]-不気味な伝承が残る鬼灯村(=ほおずきむら)の名家の当主が、大雨で孤立した屋敷の中で殺害された事件を巡り、その場に居合わせた容疑者8人の中から犯人を捜していく緊迫した物語です。全編台本なしのアドリブで撮影されたそうですが、撮影前のリハーサルなどはなかったのでしょうか。

 一切ありませんでした。死体が発見され、関係者が集まった場面から、いきなり「用意、スタート」で。だから皆さん、口にこそ出しませんでしたが、最初は「誰から行く?」と、探り合うような状態で。

-それはかなり緊張しますね。

 心強かったのが、劇団ひとりさんや八嶋さんの存在です。お二人が切り込み隊長的な感じで場を引っ張ってくださったんです。部屋にある小道具を使ったりするのも、あの緊張感の中ではなかなかできることではありませんが、ひとりさんはバナナを手に取ったかと思えば、むいた皮をポイッと放り投げて。それを見た八嶋さんも、皮が落ちた場所をさりげなく確認し、その後の芝居に生かすんです。2人で事前に打ち合わせしたのかと思ったくらいで、そういうことが自然にできるのはすごいなと。そんなふうに、プロの技が随所にちりばめられているんです。

-犯人を捜す皆さんのリアルなやり取りを見ているとハラハラします。

 私たちも犯人を知らないので、ハラハラしっぱなしでした。自分が疑われないようにしなければいけませんし、疑われた場合、その疑惑を何とか晴らさなければいけないので、一瞬も気が抜けなくて。しかも、皆さんさすがにプロの俳優だけあって、自分に疑惑が向けられると、本当に疑われている気になるんです(苦笑)。

-出演者の皆さんをサポートするスタッフも大変そうですね。

 スタッフの皆さんは、撮影以外でキャスト同士を接触させないように必死でした。普通は、撮影前に他の共演者の方と顔を合わせればあいさつしたりするんですけど、今回はすぐにスタッフが飛んできて、「しゃべらないでください」と。途中の待ち時間も、キャストは全員別の場所で待機し、それぞれにスタッフ1人が張り付いて、絶対に会わせないようにして。だから、スタッフはかなりピリピリしていたんじゃないでしょうか。誰か1人でも余計なものを見てしまったら、すべてが台無しですから。

-演じるに当たって、どんな準備をしましたか。

 事前にそれぞれの役について、バックボーンやその日1日の行動をまとめた資料を頂いたので、しっかり頭に入れておくようにしました。例えば、自分が何時にどこへ行き、何時に帰ってきたから、この時間はどうだった…といったことは、質問されたとき、スムーズに答えられないと疑われてしまうので。また、私はこれまで何度か他の番組などでマーダーミステリーに参加した経験があり、ある程度、突っ込まれそうなところが予想できたので、そのときの言い訳も考えておきました。

-といっても、予想通りにはいかないのでは?

 いきませんね(苦笑)。でも、それが面白くて。途中、それぞれが手に入れた事件の証拠を出し合う時も、「誰から行く?」みたいな駆け引きがあるんです。例えば、自分が有利な証拠を持っていると思えば、できるだけ後で出したい。そう思ってタイミングを見計らって出してみたら、他の人がさらに有力な証拠を出してきて、当てが外れたり…。しかも皆さん、「台本があるのでは?」と思うくらい、「それを出すなら、次はこれで」といろんな証拠をスムーズに出してくるので、感心しっぱなしでした。

-終わった時はだいぶお疲れになったのでは?

 疲れましたね…。ただ、アドレナリンが出ていた上に、終了後には映画の最後に流れるアフタートークも撮ったので、高揚感はありました。おかげですぐに寝付けなかったので、ホテルの大浴場に行き、「すごい1日だったな…」と撮影を振り返っていました(笑)。

-撮影終了まで、他の共演者と撮影以外で会う機会はなかったのでしょうか。

 撮影は2日間あり、1日目が事件発覚から解決までを完全にアドリブで演じるメインのパートとアフタートークまで。2日目は、事件以前のシーンと途中に挿入される回想シーンの撮影で、普通にお芝居する形でした。だから、何も隠す必要のない2日目は、皆さん解放感いっぱいで、空き時間には写真を撮り合ったり、「あのときはああだった」「あれは面白かった」など、前日の撮影をワイワイ振り返ったりしていました。まるで、みんな一緒に何かを成し遂げた体育祭の後のような絆が生まれていましたね(笑)。

-今までにない経験だったと思いますが、本作を通じて新たな発見はありましたか。

 完成した映画を一緒に見た夫が、「自然体でその場にいる姿が、今までで一番いい」と褒めてくれたんです。そういうリアルなお芝居ができたおかけで、私自身も自分がどんな顔で人の話を聞いているのか、どんなふうにリアクションを取るのか、客観的に見ることができ、自分のお芝居を見つめ直すいい機会になりました。この経験を生かして、よりいいお芝居ができるようにしていきたいです。

-お客さんにお勧めの楽しみ方はありますか。

 ぜひ、犯人が誰なのか、一緒に考えながらご覧になってください。皆さん同様、演じている私たちも分かっていませんから(笑)。そんな作品は他にないので、今までにない楽しみ方ができるはずです。そして、私が特にお勧めしたいのは、結末を知った上でもう一度ご覧になることです。そうすると、「このときこう思っていたのか」「よく隠し通しているな」と、演じる側の気持ちが想像できて、また違った面白さがあるはずです。ぜひ何度も味わってみてください。

(取材・文・写真/井上健一)

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