パワハラ(上司が部下へ)、セクハラ(主に男が女へ)カスハラ(客が店へ)など最近、「ハラスメント」という言葉を目にしない日はありません。では「モラハラ」をご存じでしょうか?
これは「モラルハラスメント」の略で、主に加害者は夫、被害者は妻です。具体的には非常識な言葉、攻撃的な態度、金銭的な締め付けなどで相手に精神的な苦痛を与えることです。
筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、モラハラは他の事情(不倫、借金、暴力など)とは異なります。
他の事情なら「離婚した方がいい」と強く勧められるのですが、モラハラの場合、相談者が「これくらいは我慢しないと」と渋ることが多いです。もちろん、「子どもが小さいから」「経済的に不安だから」「世間体が悪いから」などの理由で離婚に二の足を踏むのは仕方がありませんが、とはいえ我慢には限界があります。
モラハラの場合、どの段階で離婚を決断すれば良いのでしょうか?夫のモラハラに13年間悩まされた相談者・原琴絵さん(39歳/仮名)のケースをもとに見ていきましょう。
家事や育児を頑張っても…
「長年、主人の束縛やそれに伴う暴言に悩まされてきました。あの人の家政婦じゃないんですよ!」と琴絵さんは言いますが、夫のモラハラが始まったのは夫の転職がきっかけでした。「主人から『会社を辞めてきた』と打ち明けられたときショックでした」と振り返ります。
まず1つ目のモラハラは金銭的な締付です。最初は900万円だった年収は転職により500万円へ下がったそうなのです。それなのに夫は「渡された給料のなかでやれよ!決して少なくない給料のはずだ」の一点張り。
大変なのは家計の管理を任されていた琴絵さんです。なぜなら、夫は年収が下がっても、自分のこづかい(毎月6万円)を減らそうとしなかったからです。それは琴絵さんのやりくりのおかげなのですが、夫は気付いていなかった模様。
例えば、夫が毎月通帳をチェックし、節約の余地がある項目にバツ印を書き入れ、自宅のテーブルに置いておくのです。琴絵さんが良かれと思い、夫のコートをクリーニングに出したところ、クリーニング店のレシートに「頼んだ覚えはない!」と書かれる始末。琴絵さんは給料日の翌日はビクビクして動悸が止まらなかったそうです。「どれだけ大変だったか…私が出費を削れるだけ削ることで何とか家計を回したんです!」と。
夫の収入減によって危機に陥ったのは住宅ローンの返済です。夫婦の自宅は6,000万円で購入した戸建ての物件。当時の手取り額は月48万円だったので、月13万円の住宅ローンの返済は余裕でした。しかし、現在の手取り額(月30万円)では住宅ローンを返済し、生活費、夫のこづかいに充当すると手元には何も残りません。
それ以外の保険料や携帯代、自動車維持費、固定資産税の分だけ赤字の状態。賞与で補填するというぎりぎりの生活。琴絵さんはやむを得ずパートの仕事を始めたのですが、夫は「いくら稼いでいるんだ!稼ぎが増えたらワインを買えよな!」と言い出す始末でした。
仕事のストレスを家庭で発散する夫
2つ目のモラハラは非常識な言葉です。例えば結婚当初、夫の勤務先は過酷で、終電で帰宅するのは当たり前。琴絵さんは温かい食事と風呂を用意するため、どんなに遅くとも起きていたのですが、夫の反応は感謝ではなく激怒。「余計なお世話だ。お前が待っていると思うと仕事に集中できないじゃないか!」と吐き捨てたのですが、それだけではありません。
例えばゴミ出し。琴絵さんの地域では燃えるゴミの収集は週に2回(火曜と土曜)。たまたま火曜にゴミ出しを忘れてしまい、ゴミ袋を台所に置いたままにしたところ、夫からメールが。「お前、馬鹿だろ?何年、主婦をやっているんだよ?生ごみが臭うし、ふざけるな!」と。そのゴミ袋は3日後に出せばいいのに酷い言われようです。
それ以外にも風呂に入浴剤を用意したり、リビングテーブルに生花を飾ったりしたところ、夫は「無駄使いだ。お前が勝手にやったことだろ?頼んだ覚えはない!」と言い放ったのです。
そして3つ目は攻撃的な態度です。夫の自己中な性格は長男という存在がいても変わらず、仕事の鬱憤を家庭で晴らすかのように夫の八つ当たりは日増しにエスカレート。
夫が家庭を見向きもしないので家事や育児を一手に担う琴絵さんに向かって「俺は頼んだ覚えはない。家のことはお前が勝手にやってるんだろ!」と逆上。さらに「お前の気が強すぎるから、今まで何もできなかったんだ!」と攻撃する有様。