劇作家・藤沢文翁によるオリジナルミュージカル「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~」が4月22日から上演される。本作は、2012年に朗読劇として上演された作品を2022年にミュージカル化し、壮大な世界観と口ずさみたくなるダイナミックな音楽で話題を呼んだ作品の再演。音楽の悪魔アムドゥスキアスを初演に続き演じる中川晃教、パガニーニをWキャストで演じる相葉裕樹と木内健人に公演への思いを聞いた。
-中川さんと相葉さんは初演に続いて出演、木内さんは今回から参加となります。改めて、再演が決まったときの心境を教えてください。
中川 この作品は、朗読劇からとても丁寧に進化させてきました。そして、さらに多くの方に届けたいという思いで、こうして最速で再演が決まったことは、勢いを感じてすごくうれしく思います。僕は、悪魔役を演じていますが、この悪魔は誰の心にも潜んでいるもので、怖いだけではなく、どこか温かさがあって、憎めないところもある。この作品から僕はそういう悪魔像を読み取っていて、またこの役を演じられることにとても喜びを感じています。
相葉 初演のときから、このパガニーニという役もこの作品も大事に育てていきたいと思っていたので、また再挑戦できることは大変ありがたく思います。初演の時にはできなかったことや理解しきれなかったことも、もう一度この本から読み取って、文翁さんの思いや作りたかったものを理想の形にしていけたらと思います。とにかく楽しみですし、今回、どこまで自分自身を追い込んで、ステージでパフォーマンスできるかというのが課題だと思っています。
木内 いつか音楽家を演じてみたいと思っていたものの、音楽の知識があるわけでもないので、こうして音楽家を演じる機会をいただけたことはとてもうれしかったです。体当たりで、これまで培ってきた俳優としての技術を駆使して向かっていきたいと思います。僕は再演からの参加なので、作品の知識はまだお二人に比べたら足りないところもあると思いますが、知らないからこその新鮮な気持ちでお二人に追いつけるよう頑張っていきたいと思っています。
-中川さんと相葉さんは、初演を経てどんな感想を持ちましたか。
中川 藤沢さんが満を持してミュージカル化したいと思った“種”を形にしていく作業がこのミュージカルの最初のスタートでした。音楽を村中俊之さんという作曲家の方が作られていますが、僕はコンサートでご一緒したことがあり、波長が合うことを感じていたので、この作品でお名前を見たときに、これも一つの巡り合わせだとすごく感じました。オリジナルミュージカルを作るにあたって、そうした僕が尊敬する方たちが集結されているということで、僕の中では最初から手応えはありました。藤沢文翁さんもそうですが、皆さんミュージカルに対してとても柔軟な方ばかりです。なので、今回の再演では、演出も変わりますし、初演を“ブラッシュアップ”するということではなく、どう“進化”させていくのかだと思います。今回出会うキャストを含め皆さんと稽古をしていく中で、どのような進化をするのか、答えが見えてきたらいいなと思います。
相葉 僕は手応えよりも、これを形にするということに全力を傾けていたように思います。村中さんの楽曲もとても難しく苦戦しましたし、いただいたものを自分のものにしていくことに時間と労力がかかり、ミュージカルとしてお客さまの前で演じることに必死でした。オリジナルミュージカルということもあって、お客さまがどう評価してくださるかは、やってみないと分からない部分があったので、そういう意味でも必死だったんだと思います。ただ、僕たちの団結力はとても高く、お客さまに届けるんだという確固たる意志やエネルギーが生まれた稽古場でしたし、このカンパニーならきっと思いが届くだろうという気持ちでやっていました。そうした稽古、そして初演を乗り越えた今回は、より柔軟にチャレンジし、より楽しく、見やすく、すてきなミュージカルをお届けできればと思っております。
-木内さんは、今回、脚本を読んでどんな感想を持ちましたか。
木内 (原作・脚本・作詞の)藤沢文翁さんは、すごく言葉を大事にする方なのだなと感じました。これは僕がいつも思っていることなのですが…ミュージカルってすごく曖昧なものなのではないかと思うんです。音楽があってダンスがあってお芝居があるのがミュージカルなのかというと、きっとそうではない。じゃあ、何が正解なのかと言われると、作り手や書き手、演出家さんそれぞれに答えがあって、それを作品の中で提示しているのだと思います。役者はそれを受け入れ、一緒に作り上げていくものがミュージカルになっていくのだと、僕は漠然と思っています。そうした考えがありながら今回の脚本を読んだとき、藤沢さんの中のミュージカルの定義を強く感じました。言葉を大事にされる方だからこそ、明瞭に「ミュージカルを作りたい」という思いを感じる脚本だと思いました。俳優から出てきたものと演出家さんから提示されたものをドッキングして作り上げていけば面白い作品になるなと僕は思っています。
-ところで、皆さんも俳優というクリエーティブな仕事に就いていますが、パガニーニに共感できるところはありましたか。
相葉 悪魔と血の契約をしたことによって、命と引き換えにすばらしい音楽を100万曲弾けるという物語ですが、芸術家としてもっと高みにいきたいのにいけないというもどかしさや、そこで契約をしてしまう弱さは理解できます。そうした人間の脆さや弱さには共感できるところはありました。
中川 パガニーニは人生の岐路に立った時、悪魔との契約を選びますが、人生の岐路は誰にでも訪れるものですよね。そうしたとき、どれだけの覚悟を持って彼はその道を選んだのだろうかと想像すると、とても共感できるところがあります。きっとそれだけ大きな覚悟があったのだと思います。一方で、彼は契約の最後にアムドゥスキアスを激昂させるような終わり方をするんですよ。彼は、暗い森の中でも恐れずにメロディーだけを道しるべに歩んできた。そんな音楽に溢れていた人生を歩んでいましたが、そうした人生の中で、母親が彼の道しるべになっていました。彼は、もしかしたら悪魔との契約を悔やんだこともあったかもしれないけれども、これでよかったんだと自分の中の決着をつけるために、あの結末を選んだ。天才パガニーニという呼び名からは想像もつかない人間味のある姿も見えて、共感できるところも多いと思いました。
木内 彼は演奏家として、自分が作る音楽と向き合い、僕らは俳優として演劇に向き合っていますが、僕自身も才能がないんじゃないかと思うことはこれまでもたくさんありました。そう思うたびに、自分の戦う姿勢が足りないんじゃないか、自分の努力が足りないんじゃないかと、葛藤を抱えてきましたが、それはきっと彼も同じだと思います。僕にはまだ悪魔は来ていないので(笑)、運命の十字路に立っているのかどうか分かりませんが、これまでもさまざまなターニングポイントがあり、たくさんの方と出会って、人生に悪戦苦闘しながらも一生懸命生きています。芸術に向き合いながら生きていこうと決めたという部分はすごくかっこいいと思いますし、共感できるところでもあります。
-では、もし、皆さんの目の前に悪魔が現れて契約を持ちかけられたら契約しますか。
相葉 初演のときは、迷わず契約すると思っていました(笑)。それで自分の名が残るならいいとライトに考えていたのですが、よくよく考えてみると芸術家としてのゴールを、自分の実力ではなく付加的な能力によって達成してしまうと、その時点で人間ではなくなってしまうと思うようになりました。それに、学んだり努力したりしなくなったり、もがいたり戦うことをしなくなることは幸せなのかとも考えてしまって。なので、今だったらしないと思います。
中川 僕は、悪魔が契約を持ちかけてきた時点で選ばれしものだと感じて喜ぶような気がします。もちろん、その内容は重要だと思いますが。この物語のように命だった場合、10代の頃だったら迷わずにいけたかもしれませんね。でも、今は少し違います。なので、無責任には言えませんが、自分が本当に突き詰めていきたいものに出会ってしまった時は突き進むかもしれません。さまざまな許しを得て、自分自身もそれに納得させられるだけの説得力が自分の中に生まれてくるなら、怖いけれども、自分で決断したことを最後までやり通そうと思うかもしれませんね。それを、悪魔との契約ととるのか、自分との契約ととるのかは、自分次第だと思います。
木内 お二人の話を聞いていても悩ましいところですよね(笑)。僕は、その代償に命が関わってくるなら、契約はしないかな。命より大事なものはないと思うので。たとえ、今世紀最大の名誉だと呼ばれるようになったとしても、3年後に死ぬと言われたらやらないです。
中川 でも、役者がみんなを熱狂させるような役に出会ったとして、その役に入り込んで熱演しているときは、ある意味で、命を削っているという表現になりませんか?
木内 なりますね。
中川 それでも命を惜しいと思っているということは、あなたは芝居に対して…。
木内 ちょっと待って(笑)。それはまた話が変わってくるから(笑)。
全員 あはは(笑)。
相葉 僕は身の丈以上のことを求めてはいけないと思う。自分の中の限界を突き詰めていくのが役者だと思っているので、それを超えることはできないものなのかもしれないなと思います。
中川 真面目(笑)!
木内 相葉裕樹、木内健人だからこそできるものがあるからね。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~」は、4月22日~5月12日に都内・日比谷シアタークリエで上演。