外画・アニメ・ゲームなどで数多くの代表作を持ち、渋みのあるボイスで聞く者を魅了する大塚明夫。声優としてだけでなく、ドラマや舞台、バラエティー番組まで、マルチに活躍する山寺宏一。そんな人気と実力を兼ね備えたベテラン声優の2人が、2024年12月28日から開幕するプレミア音楽朗読劇 VOICARION XIX(ヴォイサリオン 19)『スプーンの盾』に出演する。
藤沢文翁が原作・脚本・演出を手がける「VOICARION」シリーズは、声優界・演劇界の豪華キャストが出演する贅沢な音楽朗読劇。再々演となる『スプーンの盾』は過去最多となる51名(65役)が出演。フランス革命のあと、皇帝ナポレオン・ボナパルトと料理の帝王と呼ばれたアントナン・カレームを軸に、料理の力で、血の一滴も流すことなくフランスを守った人々の世界一“美味しい”戦争の物語を描く。今回、初演からナポレオン役で出演し、本作からタレーラン役も演じる大塚と、前回からタレーラン役で出演している山寺に本作の見どころなどを聞いた。
-『スプーンの盾』が再々演となりますが、出演にあたって現在の心境は?
大塚 再々演ともなると、初出演の人と比べたら慣れているだろうという目で見られるのでちょっとプレッシャーではありますけど、ナポレオン役と今回は初めてタレーラン役もやりますので、初演時を思い出しながらワクワクしています。
山寺 僕は前回から参加で、またタレーランを演じることができてうれしく思っています。とにかく全体の出演者数と組み合わせがいくつあるんだろうという中で、それが一体どうなるのかも楽しみです。それから、明夫さんが僕のタレーランを気に入ってくれたみたいなのに、今回は明夫さんもタレーランを演じたいという話をしていて、どういうことかと思っています(笑)。
大塚 初演でナポレオンを演じさせていただいた時に、タレーランの最後の演説をやってみたくなったんです。それと、後輩が演じるタレーランが「おい、若造」と僕の演じるナポレオンに言うんですけど、僕を先輩として普段仕事をしてきた人からすごく言いにくいという声を聞いたので、それは気の毒だなと思ったから言う側に回ってみようかと(笑)。
-本作の魅力や面白さをどう感じていますか。
大塚 音楽朗読劇として生の音楽と絡み合いながら行く感じがとても楽しいです。役者が作ったものに音楽が加わるわけですけど、それが1足す1が2じゃなくて、3以上になる。セリフに音や音楽、効果音が入ることで空間が埋まっていくという感覚がとても楽しくて、この世界で泳いでいたいという感じなんです。
山寺 とにかく藤沢文翁作品というのは全て傑作、全て名作と思っています。なぜ毎回こんなに素晴らしい作品を書けるんだと驚かされます。その中でも『スプーンの盾』は、食をテーマにしていて、食で国を救うという題材がまず面白い。そして、現実で世界で戦争や紛争が激しくなっていて、そういう意味でも今やるべき作品なんじゃないかと感じています。
-演じる役の見どころは?
大塚 ナポレオンに関しては、戦争しか知らない戦争の天才というところです。軍人らしいナポレオンとしてだけでなく、リアルな1人の人間なんだという部分もちゃんと台本に書いてあってストーリーは綴られていくんですけど、書いてない部分がどうなっているのかというのを作るのが演じ手だと思っています。その中で、ナポレオンの勇ましさなんかじゃなくて、ダメさみたいなところをご覧になっていただきたいです。そこを感じていただけるとうれしいですし、皆さんが知っているナポレオン像があるでしょうけど、それよりもうちょっとナポレオンを好きになってくれるといいなと思っています。
山寺 どこがフィクションで、どこがノンフィクションなのか、これが藤沢文翁作品の特徴で、ナポレオンの腹心で天才外交官のタレーランは「裏切りのタレーラン」と史実で言われていて、彼が行った料理外交というのも本当にあった。でも、ナポレオンとどんな会話をしたのかというのは記録として残ってないわけなんですけど、この作品を見ると、実際はこうだったんじゃないかと感じさせられるんです。演出ノートに藤沢さんが「食えない男」と書いているんですけど、本音がどこにあるかよく分からなくて、うさんくさい感じでやってくれと言われています。
-本公演で気になる出演者はいますか。
大塚 僕がタレーランをやる回で、諏訪部(順一)がナポレオンで、カレームが安元(洋貴)なんだよね。
山寺 安元くんがあの野太い声でカレームもやるんだ。
大塚 だから、どうやるんだろうと思って、今からワクワクしています。
山寺 その回は見に行こうかな(笑)。僕はミュージカルで活躍されている吉野圭吾さんと共演できるのも楽しみですし、共演はできないですけど、濱田めぐみさんが出演されるというのでびっくりしました。お二人とも歌わない、踊らないのはもったいない(笑)。
-長年、多くの作品で共演されてきたお二人ですが、お互いについて感じる役者としての魅力や印象を教えてください。
大塚 僕が山ちゃんに感じるのは、変幻自在にキャラクターを操作できることと、使える音の幅の広さです。同じ音階でもその音色を全部変えることができて、総がかりで紡いでくる。強弱、高い低い、それからテンポとかを全部持っていて、それをあらゆる手段で紡ぎ出していくという、すごみと言うのか…そこがたまらなくすてきです。
山寺 ありがとうございます(笑)。 僕が明夫さんのここがどうとか言うのは本当におこがましいんですけど。
大塚 いや、別に良いところだけ言ってくれれば(笑)。
山寺 持っている声にしても演技にしてもその深みとか説得力をどうやって生み出しているのかと。もちろん本を読む力、役を捉える力もそうなんでしょうけど、そこから発せられる言葉に説得力が本当にある。何も考えてないのかもしれないですけど、もう全てを分かったかのような感じがあります。
大塚 天才ってこと?(笑)。
山寺 (笑)。しゃべったらもう芝居になるじゃないですけど、そのためには本を読み込んで考えて、普段から感性を磨いていると思うんですが、余裕を感じます。あとは色気です。年を重ねてますますですけど、出会った時から声に色気を持っていて、すごいなと思っています。
-料理をテーマとした本作にちなんで、好きな食べ物や料理を教えてください。
大塚 僕のXを見ると分かると思いますけど、お寿司かラーメンしか上がってない(笑)。二大好物です。
山寺 僕は…フレンチです(笑)、この作品にちなんで! 本格的なフレンチなんてそんなに食べたことはないですけど、上野にある、この作品とコラボしているフランス料理店・ブラッスリーレカンさんで昨年、『スプーンの盾』コースをいただいたんですけど、こんな贅沢があるのかと本当に感動しました。
大塚 今回もコラボコースがあるんだよね。
山寺 そうなんです。台本をしっかり読み込んだシェフたちがこの作品のイメージで作ったものを食べることができて、いろんな意味で感動しました。ファンの方々にも公演と合わせて絶対に行ってほしいです。
-最後に、読者にメッセージをお願いします。
大塚 朗読劇ということで敬遠されている方もいらっしゃると思いますが、朗読劇だと思わずに、生の音楽にセリフも乗っかっているぐらいのつもりで1回来ていただければと思います。今までご覧になっていただいた方も大歓迎ですし、まだこの音楽朗読劇を見たことがない方には、今までのシンプルな朗読劇とは違うエンターテインメント性を感じていただけるんじゃないかと思います。
山寺 今回、久々に台本を読んでみても心がやっぱり震えて、この作品を早くみんなに届けたいと思いました。自分が感動してお客さんにそれを伝えられなかったら意味がないので、 精一杯頑張ります。僕以外にもたくさんの方が出演されていますし、絶対に良いものをお届けできる自信があるので、ぜひ僕が出演する回も見ていただけたらうれしいです(笑)。
(取材・文・写真/櫻井宏充)
プレミア音楽朗読劇 VOICARION XIX『スプーンの盾』は、2024年12月28日・29日に大阪・サンケイホールブリーゼ、2025年1月4日~30日に都内・シアタークリエで上演。