NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。のちに「源氏物語」の作者となる主人公まひろ/紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)を中心にした波乱万丈な物語は、毎回視聴者をくぎづけにしている。物語を彩る多彩な登場人物の中で、まひろの友人さわを好演するのが、大河ドラマ初出演となる野村麻純。役への思いや撮影の舞台裏を語ってくれた。
-大河ドラマ初出演が決まった時のお気持ちは?
オーディションの時は全く手応えがなかったので、こんなすてきな役を頂けたことに、うれしさと同時にプレッシャーも感じました。でも、だからこそしっかり準備もできましたし、クランクインするまでの期間も、自分にとっては大切な時間だったなと思っています。
-さわが初登場した第十二回が放送されたときの感想はいかがでしたか。
事前に見てはいたんですけど、オンエアを皆さんと一緒に見る感動は格別でした。しかも、SNS上では皆さんがさわを抵抗なく受け入れてくださったことにも驚いて。ちょうどまひろもつらいときでしたから、第一回からご覧になっている皆さんからは、「いきなり現れて、何なの!」と、否定的な声が多く出るだろうと覚悟していたんです。でも逆に、「さわがいるのが救い」とまで言ってくださる方もいて。驚くと同時にすごくありがたかったです。大河ドラマは皆さんに届いてからが新たなスタートなんだなと、つくづく思いました。
-ところで、第十五回でさわはまひろに対して感情的になってしまいましたが、演じるに当たってさわをどんな女性と捉えていますか。
さわの根底には、まひろのことが大好きで、慕い、信頼する気持ちがまずあり、それとは別に、自分が育った家で疎外されていたこと、親から関心を持ってもらえなかったことから生じるまひろに対するうらやましさもあるんですよね。その葛藤の中で時々、爆発してしまうのかなと。実は、最初に台本を読んだとき、あまりにも感情の振れ幅が大きすぎて、「なぜこうなるのかな?」とさわの人物像をつかみ切れなかったんです。でも、監督と相談したり、撮影が休みの間に自分の中で役を俯瞰(ふかん)したりするうち、そんなふうに理解できるようになっていきました。
-そういう意味では、さわは平安時代の人ですが、現代の女性に通じる部分もありそうですね。
ものすごくあります。まひろのことが好きで、慕っているからこそ、ちょっと厄介なことを言ってみたり、構ってほしいが故に意地悪なことを言ってしまったり…。そういう人って、身近にいそうじゃないですか。そういうものは平安時代も現代も変わらないんだな、と。さわは、まひろにとってただの友だちではなく、お互いに一番の親友でありたいと思っているんでしょうね。だから、さわは絶対的にまひろの味方ではあるんですけど、ちょっと面倒くさい女ですよね(苦笑)。でも、その面倒くさいところも含めて、さわをかわいがってもらえたらうれしいです。
-さわの大好きなまひろは、劇中で上級貴族たちから「虫けら」「鼻くそのような女」など、散々な言われようですが…。
さわはそれを知りませんが、もし知ったら、どんなに身分の高い相手でも、くってかかるでしょうね。それをまひろに「さわさん、そんなことしなくていいから!」と止められる姿が目に浮かびます(笑)。
-まひろ役の吉高さんとの共演はいかがですか。
一緒にお芝居できることが、本当に幸せです。すごくチャーミングで、いつも現場を楽しく盛り上げてくださって。その上、常に気にかけてくださるので、さわがまひろにグイグイ行くように、私も吉高さんの懐の深さに甘えて、いろんな相談に乗ってもらっています。吉高さんもそれにきちんと答えてくださいますし、どんなお芝居も受け止めてくださるので、ものすごく安心感があって。感情的になったさわがまひろに思いをぶつけるシーンでは、「カット」がかかった後も涙が止まらずにいたら、吉高さんが「こんなに泣いて…」と、親指で涙を拭いてくださったんです。思いがけないことで感激しました。
-視聴者として「光る君へ」の魅力をどう感じていますか。
私も第一回から欠かさずオンエアを見ていますが、皆さんと同じように、まひろと道長の関係にはやきもきしっぱなしです。台本を読んで話は知っているはずなのに毎回新鮮で、テレビに向かって「くるよ、くるよ…」とか「ダメ、ダメ!」みたいな感じで突っ込みながら見ています(笑)。直秀(毎熊克哉)が亡くなるときは、知っていても誰にも言えなかったので、「この苦しい思いを、どうしたらいいの…?」と悶々として。オンエアも「死なないで!」と、ものすごく感情移入しながら見ていましたが、直秀が亡くならないとさわの出番が来ないので、すごく複雑でした。
-お気に入りの登場人物を教えてください。
登場人物全員が魅力的ですが、中でも私のお気に入りは、(源倫子の飼い猫の)小麻呂と藤原実資(秋山竜次)さんです。
-初めての大河ドラマの現場を経験して、役者として学んだことは?
役者は自分の力だけで役を演じられるわけではなく、皆さんの協力があって初めて、カメラの前に立つことができるんだなと痛感しました。もちろんそれはどの作品でも同じですが、大河ドラマは携わる方が多い分、よりそれを実感して。現場では美術スタッフの方が素晴らしいセットを用意してくださいますし、所作指導に加えて小道具も、琵琶から筆の使い方まで、一つ一つ指導してくださる先生がいらっしゃいます。その上、練習期間も含めて多くの時間と人が関わり、ほかのキャストやスタッフの皆さんにいろんなことを相談し、毎日その積み重ねの中から作品が生まれていく。撮影も、皆さんが現場で見守っていてくださるので、リハーサルでは緊張しても、カメラが回ると不思議と緊張が解け、余計なことを考えずにお芝居ができるんです。そういうことまで含めて、皆さんのおかげだなと、改めて思いました。
-演じる上で、現場ではどんなことを心掛けていますか。
私自身としては、大河ドラマだからといって、気負いすぎるのも良くないので、普段通り自分が演じる人物の役割だけを意識するようにしています。プレッシャーを感じているからこそ、余計なことはしないようにと。ぶれそうになったら、さわとしての役割を思い出すようにしています。
-ところで、第十五回で仲たがいしてしまったさわとまひろの今後が気になるところですが…。
第十六回では、今までため込んでいたまひろに対するさわの思いが一気に吹き出すことになります。でもそれは、まひろのことが好きで、信頼しているからこそ。第十五回と十六回でさわは「本当に同一人物なの?」と思うくらい、いろんな感情や表情を見せますが、そこには、自分にうそをつくことができず、正直に生きるさわらしさがよく表れています。それを皆さんがどんなふうに楽しんでいただけるのか、私も楽しみです。
(取材・文・写真/井上健一)