『GEMNIBUS vol.1』(6月28日公開)
東宝が手がける才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」初の劇場公開作品として、新進気鋭の監督たちが競作する短編オムニバス映画「GEMNIBUS」の第1弾。
ラインアップは、CGクリエーターの上西琢也監督が2023年にYouTubeで発表し、再生数420万回以上を記録したショートフィルムを、迫真の映像と5.1ch音響のシネマティック・バージョンとして上映する『ゴジラVSメガロ』。出演は岡本弥歩、阿座上洋平ほか。旧作ゴジラへのオマージュを感じさせるところが多々ある。特撮が見事。(上西監督インタビュー掲載中)
縦型映像のホラー映画「娯楽」がTikTok TOHO Film Festival 2022のサードアイ賞を受賞した平瀬遼太郎監督が、親子の血縁の”結び”をスタイリッシュな映像で描いたサイコスリラー『knot』。出演は三浦貴大、SUMIRE、野波麻帆、金子ノブアキ、滝藤賢一ほか。いささか観念的で分かりづらいところがあるのが残念。
テレビアニメ「薬屋のひとりごと」などの絵コンテ・演出を手がけたアニメーターのちな監督とピアニストの角野隼斗がタッグを組み、アニメに生命を吹き込むことの面白さと残酷さを大胆に描いた新感覚アニメ『ファーストライン』は、なかなか感動的な話。
第75回カンヌ国際映画祭の#TikTokShortFilmコンペティションでグランプリを受賞した本木真武太監督が、少子高齢化問題を背景に撮りあげたSF学園ゾンビ映画『フレイル』は、アイデアが秀逸。出演は奥平大兼、莉子、今井柊斗、大石吾朗ほか。
オムニバス映画とは、複数の作者による独立した作品を集めて一つにまとめたものを指す。従って見る側は一挙両得をしたような気分にもなるが、この場合は、長編を撮る前の若手監督たちの試金石的なものに当たる。
その意味では、なかなか面白い企画だが、それぞれが習作や実験作の域を出ていないのは否めない。何だか、某映画祭で審査員をやった時のことを思い出し、勝手に順番を付けたら、『フレイル』『ゴジラVSメガロ』『ファーストライン』『knot』となった。この映画は、そんな楽しみ方もあるし、この中から、将来大化けする監督が出るかもしれないと思うと楽しくなる。
『プロミスト・ランド』(6月29日公開)
マタギの伝統を受け継ぐ東北の山間の町。高校卒業後に家業の鶏舎を継いだ20歳の信行(杉田雷麟)は、閉鎖的な暮らしにうんざりしながらも流されるまま日々を過ごしていた。
ある日、役所から今年の熊狩りを禁止する通達が届く。違反すれば密猟とみなされ、マタギとして生きる道を閉ざされてしまう。町のマタギ衆は仕方なく決定に従うが、信行の兄貴分である礼二郎(寛一郎)はかたくなに拒み続ける。やがて礼二郎は信行を呼び出し、2人だけで熊狩りに挑む秘密の計画を打ち明ける。そして2人は山に入るが…。
飯嶋和一が1983年に発表した同名小説を映画化。本作の舞台でもある山形県庄内地方のマタギ衆に密着したドキュメンタリー『MATAGI マタギ』(23)の飯島将史監督が長編劇映画の初メガホンを取った。
特に時代設定は明らかにしていないが、舞台は1980年代だという。それ故、どこか昔の自然を相手にしたハードな映画を見ているような気になる。特に、西村晃主演の『マタギ』(82)のことを思い出した。若い2人が山中でのロケを頑張っている。今何かと騒がしい熊について考えるという意味ではタイムリーな映画になった。(寛一郎杉田雷麟インタビュー掲載中)
(田中雄二)