いよいよ夏本番。学校も間もなく休みとなり、映画館が“夏休み映画”でにぎわう季節に。今年の特徴は、アニメ作品が豊作ということ。最も収穫ならぬ集客が多そうなのが『怪盗グルーのミニオン超変身』で、ライバルもディズニー&ピクサーの最新作『インサイド・ヘッド2』だから。もちろん、実写でも日本映画『キングダム 大将軍の帰還』、マーベルヒーロー映画『デッドプール&ウルヴァリン』といった話題作が公開されるが、今夏は例年以上に質量ともに劇場アニメが充実しているのだ。
★イルミネーションvsピクサー
まずは本命の『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月19日公開)から見ていきたい。言わずと知れた、イルミネーションが誇る世界的大ヒット・シリーズの4作目(ミニオンたちが主人公のスピンオフを含めると6作目)。高校の同窓会に出席したグルーが、彼に恨みを抱く因縁の相手マキシムに襲われる。実は、グルーは反悪党同盟の捜査員としてマキシムを内偵しており、計画通り逮捕に成功する。ところがマキシムが脱獄したため、素性と名前を偽って一家で身を隠すハメに…。今回、グルーに待望の息子(グルーJr.)が誕生し、トリックスターのようにトラブルの火種となる。もちろん、邦題にあるようにミニオンたちの“変身”も見どころで、クオリティーの高さは相変わらず。このシリーズにハズレなしだ!
一方、対抗馬となる『インサイド・ヘッド2』(8月1日公開)は、2016年にアカデミー賞で長編アニメ映画賞を受賞したピクサー作品の続編。ピクサーといえば、『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』などで知られるCGアニメ界きっての人気ブランドだが、近年はイルミネーションや『アナと雪の女王』などディズニー本家の勢いに押されて、影がやや薄まった感がある。それでも、作品のレベルが落ちたわけではない。実際、今回も前作に引けを取らない面白さだ。前作では、小学生の少女ライリーのさまざまな感情を擬人化し、“悲しみ”という感情がどうして必要なのか?という深いテーマを見事な冒険映画へと着地させたが、今回はティーンエージャーとなったライリーの成長物語。思春期に新たに芽生えた感情と子どもの頃からの感情の対立を通して、自分らしさとは何か?という普遍的なメッセージを投げかける。今度もまた、内容が濃い上に感涙必至! イルミネーションもピクサーも斬新な設定や強烈なキャラクターを使って、誰もがふに落ちる普遍的なことを描いているのだ。
★今夏はスクリーンで猫が大活躍!
この2大ブランドに続く注目作としてオススメしたいのが、カンヌ国際映画祭の「監督週間」に出品された日本とフランスの合作『化け猫あんずちゃん』(7月19日公開)。イラストレーターや漫画家としても活躍する気鋭のクリエーター・久野遥子と実写映画の人気監督・山下敦弘が共同で監督を務めており、主演の森山未來らの演技をアニメーションに取り込む“ロトスコープ”という手法を用いることにより、リアルで繊細な動きが再現されている。いましろたかしの同名漫画が原作で、人間の言葉を話す化け猫との交流を通じた11歳の少女の成長物語だ。
猫といえば、かつて実写映画にもなった世界的に有名な新聞漫画をフルCGアニメ化した『ねこのガーフィールド』(8月16日公開)もある。怠け者で食いしん坊! 飼い主に愛されて“幸せ太り”の家猫ガーフィールドが、生き別れた父親を救うために外の世界で大冒険を繰り広げる。スラップスティックなドタバタ劇の中から浮かび上がる家族の絆が胸を打つ。
ユニークなところでは、村上春樹の小説を初めてアニメ映画化した『めくらやなぎと眠る女』(7月26日公開)が。フランスのアニメ作家で音楽家のピエール・フォルデスが、6つの短編「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「かいつぶり」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に降りる」「めくらやなぎと、眠る女」を再構築。村上ワールドならではの現実と幻想(異界)を行き交う物語ながら、どこか生々しいリアルな肌触りが印象的だ。ちなみに、ここでも猫のワタナベノボルが活躍する。
さらには、「チェンソーマン」「ファイアパンチ」で知られる人気漫画家・藤本タツキの伝説的な読み切り漫画をアニメ化した『ルックバック』(公開中)。小学校新聞の4コマ漫画を通して出会った2人の少女が共同ペンネームで漫画家デビューする話で、衝撃過ぎる後半の展開に“友情”という身近な関係を深く考えずにはいられない。知る人ぞ知る人気アニメーター・押山清高監督による再現度の高いアニメ表現も必見。声を河合優実、吉田美月喜という気鋭の若手女優2人が担っている。
夏休み恒例のシリーズでは、映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』(公開中)が評判だ。来年春クールのNHK朝ドラが、原作者やなせかたし夫妻をモデルにしているからではない。何とアンパンマンと宿敵ばいきんまんが力を合わせて戦うのである。そして、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(8月9日公開)はこれがシリーズ31作目で、もはや夏休みに欠かせないシリーズとなっている。今回は、夏休みにぴったりのファミリームービーに限定して紹介してきたが、他にも反戦・反原爆アニメとして有名な1986年のイギリス映画『風が吹くとき』(8月2日公開)が、大島渚監督が監修した日本語吹き替え版でリバイバル公開されるなど、今夏は劇場アニメがめじろ押し。 家族そろって楽しめる作品が多いので、涼しい映画館で家族の親睦を図ってみては?
(文/外山真也)