『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(7月19日公開)


 1969年、人類初の月面着陸を目指す国家的プロジェクト「アポロ計画」の開始から8年が過ぎ、アポロ11号の発射が迫っていたが、失敗続きのNASAに対して米国民の関心は薄れつつあった。


 ニクソン大統領の側近モー(ウディ・ハレルソン)は状況を打開すべく、PRマーケティングのやり手であるケリー(スカーレット・ヨハンソン)に白羽の矢を立て、NASAに彼女を雇用させる。


 NASAの発射責任者コール(チャニング・テイタム)は、ケリーのイメージ戦略に反発するが、ケリーの活躍によってアポロ11号の月面着陸計画が全世界の注目を集めるようになる。


ところがケリーは、モーから「万一に備えて月面着陸のフェイク映像を撮影する」という前代未聞の極秘ミッションを告げられる。


 アポロ11号による人類初の月面着陸にまつわる“うわさ”をモチーフに、奇想天外なプロジェクトの行方を、ケリーとコールのやり取りを中心にユーモラスに描く。ヨハンソンが着こなす60年代ファッションや髪形も見どころの一つ。監督はグレッグ・バーランティ。


 これまでも、アポロ以前のマーキュリー計画を描いた『ライトスタッフ』(83)や『ドリーム』(16)、アポロ11号の船長ニール・アームストロングを主人公にした『ファースト・マン』(18)、アポロ13号の奇跡の生還を描いた『アポロ13』(95)など、アメリカの宇宙計画を描いたものは多いが、それらストレートな映画から見ればこの映画は“変化球映画”だと言えよう。


 むしろ、火星探査機の故障が発覚したものの、それを公表できず、NASAは砂漠に大掛かりなセットを組んで、そこから偽の中継映像を流して成功をでっち上げるという『カプリコン・1』(77)に近いものがある。


 ただ、『カプリコン・1』はシリアスな内容だったが、この映画はコメディータッチで描き、最後はちゃんとアポロ11号への賛歌になっているところが面白い。


 ヨハンソン、テイタム、ハレルソンという主軸のほか、NASA職員(レイ・ロマノ)、フェイク映像の監督(ジム・ラッシュ)、NASAのプレスエージェント(クリスチャン・クレメンソン)といった脇役たちの活躍も楽しい。


ところで、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン=私を月に連れて行って」というしゃれたタイトルは、ジャズのスタンダードナンバーから取られている。


この曲はフランク・シナトラの歌唱で有名で、クリント・イーストウッド監督の『スペースカウボーイ』(00)のラストでも流れたが、この映画では、シナトラのものではなく、ボビー・ウーマックが歌ったものが流れた。このあたりも“変化球”だ。

『あのコはだぁれ?』(7月19日公開)


 目の前で恋人の悠馬(染谷将太)の交通事故を目撃したほのか(渋谷凪咲)。彼女は、夏休みに臨時教師として、瞳(早瀬憩)、タケル(山時聡真)、蓮人(荒木飛羽)、大樹(蒼井旬)、まり(今森茉耶)がいる補習クラスを担当することになった。ところが、まりが突然屋上から飛び降りて不可解な死を遂げる。


 教室にいるはずのないさな(穂紫朋子)の存在に気付いたほのかが、瞳やタケルとともに調べてみると、生徒たちの間でささやかれる、そこにいないはずの“あのコ”についての驚くべき真実にたどり着く。


 『呪怨』(00)『犬鳴村』(19)『ミンナのウタ』(23)などの清水崇監督による学園ホラー。『ミンナのウタ』を引き継ぐ内容で、謎のカセットテープやさなの存在、探偵の権田(マキタスポーツ)も引き続き登場する。とはいえ、単品として見てもちゃんと成立している。


 よくある“学校の怪談話”に、1人の少女の恐るべき妄想を絡めた怪奇譚。音や音楽が重要な役割を果たし、恐怖を盛り上げるが、驚かすための不自然な動きなどでは思わず笑ってしまうところもあった。ゾンビ映画もそうだが、まさにホラーとコメディーは紙一重という感じがした。


 ほぼホラー映画一筋の清水監督。手を替え品を替え、同じジャンルの映画を作り続けるところには頭が下がる。


(田中雄二)