1902年の初出版以来、世界中で親しまれているビアトリクス・ポター原作の絵本『ピーターラビット』が初めて実写映画化された。5月18日の日本公開を前に来日したウィル・グラック監督が、イギリスの美しい湖水地方を舞台にした本作の見どころや、製作の舞台裏について語った。
-『ピーターラビット』初の映画化に対する思いは? 原作は読んでいましたか。
子どもの頃、両親が読んでくれました。今は自分にも子どもがいるので彼らに読み聞かせています。とにかく僕はピーターラビットというキャラクターが大好きなんです。長年映画化されなかったのは、ポターの原作を継承している団体が、映画化に対してとても慎重だったからです。ですから、今回は長い時間を懸けて映画について説明し、納得してもらいました。
-『アニー』のリメーク版(14)に続いて、今回は有名な原作の映画化です。観客とってすでにイメージがあるものを映画にする難しさはありますか。
とても難しい。二度とやりたくないぐらいです(笑)。アニーにも、ピーターラビットにも、それぞれの人が自分なりの思い入れを持っているので、映画に対する期待度がとても高いのです。また、それぞれの原作との関係を考えてみても、映画化に際して原作を変えた部分もあるので、それをいかに処理するか、というのが大変なところです。
-監督はアメリカ人ですが、今回はアメリカンコメディーとは違い、イギリス流のブラックな笑いや、アイロニーが目立ちました。この点は意識的に演出したのでしょうか。
今回は、イギリスやオーストラリアのスタッフがほとんどで、アメリカ人は僕一人でした(笑)。ピーターラビットは非常にイギリス的ですから、もちろん英国流のユーモアが主ですが、今回は、少しアメリカ的なものも入っています。というのは、アメリカンユーモアは世界中に浸透しているところがあるからです。ただ、今回一番意識したのは、イギリス人に受け入れられるか、ということで、これは成功しました。そして二番目に意識したのは日本の観客です。
-アメリカンコメディーという意味では、ドーナル・グリーソンが演じるマグレガーが、『ホーム・アローン(90)』の“やられ役”のジョー・ペシとダニエル・スターンに重なって見えました。
撮影中は気付きませんでしたが、確かに『ホーム・アローン』と共通するところはあると思います。どの子どもにとっても、親が不在で、自分が家に独りぼっちという状況はあり得るので、この映画ではピーターがそれに当てはまると思います。
-監督は「観客に全てがリアルに感じてもらえたら…」とコメントしていますが、実写とCGの合成についてはどう考えたのでしょうか。
この映画は基本的には実写映画のつもりで撮りました。アニメーションのスタイルは取っていません。それは、人間の実写とウサギや他の動物を組み合わせた後で、CGを使っていることを観客が忘れてしまうようにしたかったからです。
-監督のお気に入りのキャラクターは?
もちろんピーターですが、二番目は僕が作ったおんどりのルースターです。あれは僕の末娘の言葉から作ったキャラクターです。娘は毎晩寝るときに「これで終わりだ」と言います。ところが、朝起きると「また朝が来た。生きている」と(笑)。そこからアイデアをもらいました。
-時代設定を現代に移した意図は?
実はこの映画は、あえて時代を特定していません。ですから、現代かもしれないし、あるいはもっと昔かもしれないし、50年後かもしれない。携帯電話も出てきませんし、誰もイヤホンを付けていません。言葉の中にも“今”を感じさせるものは一切出てきません。こうした点にはとても注意を払いました。ただし、言葉は現代語です。それだけです。
-ハロッズのおもちゃ売り場を舞台の一つにしたのは子どもの観客を意識したのでしょうか。
マグレガーは子どもたちに対してもとても厳しい。その彼がおもちゃ売り場に務めているという皮肉の面白さは狙いましたが、“子ども向けに”ということは特に意識していません。僕の映画作りのモットーは「子どもに受けそうだからこのシーンを入れる、というのはなしにしよう」というものです。
-では、この映画の見どころと、映画に込めたメッセージを。
一番の見どころは、本当に美しいイギリスの湖水地方の風景を描いていることです。もちろん動物たちも、(ここだけ日本語で)かわいい(笑)。メッセージとしては、家族のために何かをするということ。家族が一番大事なんだということを訴えています。それから、物語の中心にあるのは、ビア(ローズ・バーン)とマグレガーのラブロマンスです。トロイの木馬(巧妙に相手を陥れる罠)のように、動物の話だろうと思っていると、実は2人の愛の話になっています。
-日本で暮らしたことがあるとお聞きしましたが、印象は変わりましたか。
8年間東京に住んでいて、今回24年ぶりに戻ってきました。昨日飛行機を降りたときに、日本のにおいがしました。僕がいた頃とはだいぶ変わりましたね。特に六本木が(笑)。以前よりも清潔になりました。
-ラストシーンを見ると、続編も…と思えたのですが。
先日、2020年の2月に続編を公開することを発表しました。また僕が監督をします。まだ何も考えていないので、何かいいアイデアがあったら教えてください(笑)。
(取材・文・写真/田中雄二)