まだソロ・デビュー前の’93年に小山田圭吾がプロデュースしたピチカート・ファイヴのヒット作『BOSSA NOVA 2001』収録の名曲『マジック・カーペット・ライド』を、その後コーネリアスとして『FANTASMA』も『POINT』も『SENSUOUS』も通過した彼がアレンジするという感慨深い共演もあれば、ピチカートの中でもストレートなロック・ナンバー『スーパースター』を、文字通り他に類を見ないギター・プレイでジャンルレスにシーンをかき回す雅-miyavi-が掻き鳴らしたりと、未知のコラボレーションも混在しているのが、本作の聴きどころ。収録楽曲は30年の歴史を網羅しつつも、単なる寄せ集めの懐メロ大会ではなく、2012年に聴いてしっかり刺激的なポップ・ミュージック集としてバリバリ機能しまくる1枚になっているのだ。それを象徴する1曲が、自他共に認めるピチカート・マニアでもあるヒャダインによる『ベイビー・ポータブル・ロック』だろう。野宮真貴(そして小西康陽)へのリスペクト&愛があふれまくり、かつヒャダイン節絶好調な仕上がりで、いまの彼の勢いが象徴された名アレンジだと思う。
なにより印象的なのが、そんな強力なトラックにひるむどころか、本当に楽しそうに歌いまくる野宮真貴その人の存在感だ。ファッション・リーダーやポップ・アイコンとして広くその名を知られる彼女だが、“ボーカリスト・野宮真貴”の魅力を改めて見せ付けられた気がした。女優が作品ごとに違う役を演じるように、曲ごとにさまざまな表情をみせながらも、どこを切っても野宮真貴でしかない声。このアルバムを歌いこなせるのは彼女しかいないだろうし、彼女だからこそ、ここまで多彩なトラックが揃ったのだと思う。ちなみに今回のプロデューサー陣の人選&選曲は、すべて本人とスタッフが行ったとのこと。うーん、さすが真貴ちゃん(どさくさに紛れてちゃんづけしてしまいました)。3月19日(月)には、Shibuya O-Eastにて、30周年記念ライブの開催も決定している。(O-Eastといえば、2001年にピチカート・ファイヴの「お葬式」をやった会場ですね。感慨深い。絶対行きます)
この作品、野宮真貴を知っている人は黙ってても聴くと思うので、「野宮真貴って誰?」という、まだ彼女を知らない人にこそ聴いてほしい。これだけ幅広いメンツが参加していれば、音楽ファンであればどこかしら引っかかるポイントがあるはず。そこを入り口にして一歩足を踏み入れてみてほしい。最高のポップ・ミュージックの世界が待っているから。最後に極々個人的な感想を。YOUR SONG IS GOODの『陽の当たる大通り』が実質ラストというのは、とてもいい選曲だと思いました。アレンジも最高。ユアソン、グッジョブ!