新世代のボーカロイド「初音ミク」発売
「キャラクター・ボーカル・シリーズ01 初音ミク」パッケージ。

「初音ミク」は、いち早く国内でボーカロイドライブラリを手掛けていたクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下クリプトン社)によって2007年8月31日に発売されます[*5]。この年の1月、ヤマハ社は第2世代のボーカロイドである「VOCALOID2」を発表、初音ミクはこれに対応したライブラリということで、話題を呼んでいました。

そして実はもうひとつ、初音ミクが注目を集めていた全く別の理由があります。楽器ソフトには珍しいアニメ調のイラストが描かれたパッケージと、公式デモソングで公開されていた可愛らしい声がそれです。これらは少なからず音楽関係者以外にも話題を振ることになりました。とは言え、「初音ミク」という製品はDVDパッケージサイズの箱に入れられたディスクメディアでしかありません。この時点ではまだ、初音ミクを定義するものはパッケージに描かれたイラスト1点と、そのライブラリに収められた音色だけでした。ソフトを起動しても、さきほどの動画でも見られるような、ただひたすら楽器を操作するための無機質な画面が表示されるばかりなのです。

 

こちらが初音ミクの発売に合わせて発表されていた公式デモソング「星のカケラ」(作曲:平沢栄司)。きちんと違和感なく聴き取れる滑らかな歌唱は当時衝撃的でした。加えて、その可愛らしい声とイラストが、ネットユーザーの耳目を集めることになりました。

 
バーチャル・シンガー「初音ミク」

ここまででお話ししたとおり、当時「初音ミク」とは、「ボーカロイドという楽器で奏でられるひとつの音色の名前」であり、一風変わったボーカロイドとして登場したソフトウェアでしかありませんでした。しかし現在、その「初音ミク」は、多数の楽曲提供者をバックに持ち、5万曲を超える「初音ミク」名義のオリジナル曲を有する[*6]前代未聞、未曾有のバーチャル・シンガーとして取り扱われるようになっています。

それまでは専門分野のツールとしての存在でしかなかったボーカロイドが、なぜここまでメジャーになったのか。膨大な量のオリジナル曲はどのようにして生まれるのか。そして、あたかも実在するかのようなキャラクター性を持つようになったのはなぜなのか。この現象の裏側には奇跡的とも言える多くの事象の重なりがあります。2007年はボーカロイドを語る上で特異点とも言うべき年です。西暦ならぬ「ボカロ暦1年」にあたるこの年に起きたことについては、また次回、お話ししようと思います。

おまけ。実は「初音ミク」以前にもボーカロイドは多数存在していました。この動画は、「MEIKO」というボーカロイドを使っていたユーザーが、新しいボーカロイド「初音ミク」を注文した際のボヤきを、懐かしのゲーム音楽に乗せて歌わせた動画です。可愛らしい内容ですが、初音ミクのデモソングとの声質の違いにも注目?してくださいね。

 

[*5] 【関連リンク】クリプトン社 | VOCALOID2 - キャラクター・ボーカル・シリーズ
[*6] ニコニコ動画で「初音ミク オリジナル」を検索した結果総数より(2012年1月現在)

VOCALOIDならびにボーカロイドはヤマハ株式会社の登録商標です。© Yamaha Corporation. jp.yamaha.com 「初音ミク」「MEIKO」はクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の著作物です。「初音ミク」ill. by KEI © Crypton Future Media, Inc. www.crypton.net

ボカロ担当研究員。2007年「初音ミク」発売と同時にボカロに触れ、それ以降どっぷり聴き専。いつも新しいワクワクやドキドキ、感動を与えてくれるボカロファミリーを徹底追跡。