龍佐民役の柄本明

 奄美大島で愛加那(二階堂ふみ)と結婚し、家庭を持った吉之助(鈴木亮平)だったが、親友・大久保正助(瑛太)の尽力により、薩摩へと戻ることになった。奄美で吉之助の世話をしていたのが、豪農・龍家の当主であり、愛加那の伯父に当たる龍佐民。演じた柄本明が、撮影の舞台裏を語ってくれた。

-龍佐民とはどんな人物でしょうか。

 産業としてサトウキビの栽培を行っていた奄美大島は、恐らく日本だけでなく、大陸からの干渉も受けていたはず。だから、生き延びるのに必死だった。そんな状況に置かれた奄美の人たちは、薩摩に対して恨みのような感情を抱いています。もちろん、佐民にも同じ気持ちはあったでしょう。ただ、それを前面に出せば、戦争ということになる。そうなったら勝てないわけで、生き延びるためにどんな選択をしていくか…。龍家の当主としてそこを考えなければいけない佐民は、大変な苦労をしたに違いありません。

-島に流されてきた吉之助を、佐民はどう思っていたのでしょうか。

 西郷さん自身は奄美の人々に危害を加えるような人物ではないわけですが、長年虐げられてきた側としては、薩摩から来た人間に対してそういう判断はなかなかできない。そんな中でも、佐民は教養があった人物なので、西郷さんの本質にいち早く気付いた。最初、「子どもたちに米の飯をあげるのはやめてくれ」と言っていた佐民が、西郷さんが島を去るとき、「たくさんの夢を見させてくれてありがとう」と気持ちよく送り出せたのは、そういう気持ちの変化があったからでしょうね。

-吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象はいかがでしょうか。

 まず体が大きい。その上、一生懸命。西郷さんにはピッタリじゃないでしょうか。僕はあまり他の俳優とああしよう、こうしようと相談をすることはありませんが、亮平くんはせりふのやり取りなども、目を見て話してくれるので、とてもやりやすいです。

-二階堂ふみさんが演じる愛加那については?

 二階堂さんとは以前も共演したことがありますが、感受性が豊かで生命力にあふれた女優さん。お芝居の中でも、そういったものをぶつけてきます。だから、いちずでものすごいエネルギーを内に秘めた愛加那役はとても合っています。

-龍佐民の妻・石千代金を演じる木内みどりさんとは、昔からの知り合いだとか。

 もう長い付き合いです。だから、休憩中は昔話ばかり(笑)。最初、奥さん役が木内さんだと知らなかったんです。そうしたら、現場であいさつされて。驚きましたが、うれしかったです。劇中でも、普段の僕と木内さんの関係そのままの雰囲気が出ていると思います。

-奄美の方言は、薩摩ことばとまた違って難しそうですが、演じてみた印象は?

 これでも、多少は分かりやすくしているようですね。僕個人の意見としては、たとえ分かりにくかったとしても、できるだけ現地の言葉を使う方がいいと考えています。その「分からない」ことこそが重要ではないかと。「この言葉はなんだろう?」と、疑問を感じることから広がっていくものがあるはず。分かりやすくすることにばかりに捉われると、言葉の微妙なニュアンスが失われてしまいます。現在のテレビでは、どうしても分かりやすくすることを求められがちですが、僕個人としては、できるだけ現地の言葉をそのまま使う方が好きです。

-大河ドラマへの出演は「功名が辻」(06)以来、12年ぶりだそうですが、当時との違いは感じますか。

 渡辺謙さんとも話していましたが、これだけスタジオが暗い中で撮影できることに驚いています。昔は、昼でも夜中でもライトで明るく照らして撮影していましたが、今はそこまで照らさなくても、暗い状態のまま撮れてしまう。カメラの進歩に驚きました。ただ、人間がやることなので、他はそんなに変わりません。僕は昔、NHKで大道具のアルバイトをしていたことがあるので、ここに来るとそういったことも思い出して、懐かしくなります。

-年齢を重ねて、ご自身のお芝居の変化を感じることはありますか。

 若い頃より疲れるようになりました。というのは、体力の問題だけではないんです。人間の欲望というのは、どんどん大きくなっていくもの。若い頃は何も考えずにせりふをしゃべれていたものが、年を取るといろいろなことを考えるようになる。そうすると、芝居が難しくなっていく…。そうでないと面白さが感じられなくなって、自分で難しくしていくんです。だから、せりふ一つ言うにしても、疲れるようになりました。肉体的にも精神的にも、芝居って結構疲れるものだな…なんて思っています(笑)。

-島での撮影の思い出は?

 撮影に入る前、他の仕事でヨーロッパに行っていたのですが、時期が冬なので寒かったんです。だから、きっと次は南の島なので暖かいだろうな…と期待していました。でも、帰国した後、自宅で一晩休んで沖永良部島に行ってみたら、ものすごく寒くて…(笑)。しかも、撮影場所が海岸だった上に、衣装も薄着。満ち潮がくると、さらに寒い。あまりの寒さに驚きました。ただ、そこでみんなが頑張った分、いい映像になっていると思います。

-スタジオのセットでも撮影があると思いますが、島での撮影と比べていかがですか。

 セットもロケに負けないぐらい見事な仕上がりです。砂浜のような広い場所は現地でないと撮れませんが、それ以外は遜色ない出来栄えで、雰囲気も一緒。スタッフが頑張ってくれたおかげで、いい芝居ができそうです。

(取材・文/井上健一)