東京都企業立地相談センターは12月19日に、「墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE」を設置した、墨田区産業観光部産業振興課への取材内容を同センターのウェブページにて公開した。
墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION COREのフリースペース
「THE CORE」内に設けられた、利用者同士の交流を促進するオープンスペースの様子
新たなイノベーションを創出する「出会いの場」
墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)は、スタートアップ企業と墨田区内のものづくり企業との「共創」によって、新たなイノベーションを創出する「出会いの場」として、2023年10月にJR総武線・半蔵門線の錦糸町駅から徒歩8分の場所に開設されている。
墨田区は、1979年に全国ではじめて「墨田区中小企業振興基本条例」を制定して以来、中小企業の事業を継承して、次世代を担う人材の育成を目指す私塾形式のビジネススクール「フロンティアすみだ塾」の立ち上げによる中小企業の活性化や、ものづくりでイノベーションを目指した、印刷・金属・繊維・デザインといった拠点を運営する事業者の特性を活かした新ものづくり創出拠点の開設など、ほぼ半世紀にわたって中小企業支援に取り組み続けてきた。
墨田区産業観光部産業振興課の
高橋正臣氏
墨田区産業観光部産業振興課において産業振興を担当する高橋正臣氏によれば、SICは他の類似するスタートアップ支援施設とは、「ものづくりのまち すみだ」を継承・発展すべく、将来の「産業集積のアップデート」の実現を目指している点、ものづくりに挑むハードウェア系のスタートアップの支援を前面に打ち出している点が異なるという。
将来の「産業集積のアップデート」の実現を目指す取り組みとしては、スタートアップ支援に特化するのではなく、スタートアップ企業と区内中小企業、または区内の大学、スタートアップ同士などの「共創」の創出によって、スタートアップや区内企業がともに成長するための支援を提供している。
具体的な取り組み内容は、創業初期のスタートアップと墨田区内の学生起業家を対象に、スタートアップのニーズに応じて「事業企画力」「共創プラン」「共創パートナー」を獲得できるプログラムを提供する、アクセラレーションプログラム「SPARK(SUMIDA PROTOTYPE ACCELERATION KIT)」が挙げられる。
現時点では、「SPARK」第2期生に対して10月上旬~2025年2月下旬の半年間、伴走支援を行っており、卒業後は同プログラムで獲得した「共創プラン」「共創パートナー」で実証実験を行うべく、2022年に開始された「プロトタイプ実証実験支援事業」のエントリーにつなげるという。
伴走支援としては、「墨田区のものづくり企業や行政との共創」といったテーマで必要な知識を習得するためのワークショップ、個別面談による共創プラン構築の支援、共創パートナーとなる墨田区のものづくり企業などとのマッチング機会の設定、アクセラレーターとのメンタリング、オン・オフコミュニティ形成、すでにプロトタイプ実証実験に参画している先輩起業家との交流の場の提供など多岐にわたる。2025年2月下旬に予定している成果報告会では、スタートアップ業界の関係者などを招いて、対外的なプロモーションの機会を提供し、プログラム卒業後も事業加速をサポートする。
ものづくりに挑むハードウェア系のスタートアップの支援は、墨田区に印刷・紙加工、金属製品、プラスチック・ゴム製品、機械器具、繊維や皮革製品といった、多様な業種の中小企業が集積しており、ものづくりに挑むハードウェア系のスタートアップにとって業種の選択肢が多く、ものづくりに取り組みやすく、また区内のものづくり企業側もスタートアップとの共創に期待していることから、前面に打ち出されている。
ものづくりに挑むハードウェア系のスタートアップと、区内のものづくり企業側との共創事例としては、MOVeLOTやセラピアの取り組みが挙げられる。
MOVeLOTは人間が実際に乗って操縦体験が可能な「搭乗型ロボット」の開発および運用を行っており、2023年の創業ながら浅草や東京スカイツリーといった観光地に、高さ約3mの機体「ASTRO」を運んでインバウンドを中心に操縦体験を提供し、3年以内の海外展開、10年以内の上場を見込んでいる。
セラピアは、ノーコード技術を活用したDX人材育成サービスなどを手がけており、墨田区内の中小企業に対して行ったDX支援が高い評価を得ているほか、プロトタイプ実証実験で2年間取り組んだ実績をもとに、他の自治体からも注目されているという。同社は、愛知県豊川市、愛媛県ほか全国の自治体にサービスを提供し、事業を拡大している。
施設内のコミュニケーションスペース「The STAR」では、
月に10回以上のイベントが行われる
そのほか、SICではピッチイベント、町工場見学ツアー、子ども向けものづくりイベント、ランチ交流会、スナック形式の交流会、会員交流会、SICに会員登録している銀行やVCなどの金融機関合同セミナーといった、硬軟取り混ぜたイベントを月に10回以上が開催される。これらのイベントには、SICの会員が自主的に行うものもあれば、運営側が主催するものもあり、いずれも「共創」や「交流」をテーマに、参加する企業や団体、個人が積極的に情報交換を行っており、今後も多くの共創が生まれることが期待されている。
なお、SICは、スタートアップ企業が属する「スタートアップ会員」、スタートアップとの共創を視野に入れている墨田区内のものづくり企業が含まれる「区内事業者会員」、スタートアップの成長・事業拡大や、墨田区のものづくり企業などとの共創を促進する、金融機関・ベンチャーキャピタル・大企業・メディア・全国各地の支援機関・各自治体などが含まれる「パートナー会員」、先輩起業家・弁護士・税理士・会計士・行政書士といった、スタートアップの成長に必要なプレーヤー「メンター会員」、現在は個人事業主として活動しているフリーのクリエーターやデザイナーなどスタートアップ会員候補である「準会員」の、全5種類の会員で構成される。
「区内事業者会員」以外なら立地は問わず、墨田区内企業との共創に賛同して事業を展開するのであれば、墨田区内だけでなく日本~海外までどこからのアプローチも受け付けるという。