変わっていく家族の状況

大きくなるにつれて手がかからなくなる息子の成長が、道代さんにとっては唯一の安らぎであり、仕事をがんばれる理由だったといいます。

「両親の仲があまり良くないのは一緒に暮らしていればどうしても気が付くだろうけれど、自分を大事にしてくれることは、忘れないでほしかったですね……」

息子が中学校に進学する頃には「完全に仮面夫婦状態」で、道代さんは客間を自分の部屋にして布団を持ち込み、リビングで夫とふたりきりになるのは避けていたそうです。

問題は、自分たちと過ごすより友達との時間を優先するようになった息子が、休日は家を空けることが多くなってから。

「日曜日の午前中から遊びにいってしまったときなど、シーンとした家のなかで夫の気配を感じるのが嫌で、私も図書館で過ごすようにしていました」

と、窮屈な思いをしていたといいます。

思春期になった息子は自分たちにも反抗的な態度をとるようになり、

「母親の私はともかく、小さい頃から自分に懐かせていた夫は、うるせえとか自分を睨みつける息子を見るのはつらかったでしょうね」

と、三人で食べるご飯も気まずい空気が流れるのを、どこか溜飲の下がる思いがしたそうです。

「夫は、息子を自分の味方にして私を孤立させたかったのかもと今は思いますが、上手くいくわけないですよね、息子にも自我があるので。

夜になっても帰宅しない息子にイライラして怒鳴っていましたが、そんなことをするから余計に息子は逃げるし、私は私で子はそんなものと思っていたので、静観していました」

会社で、同じく子の反抗期に悩む同僚たちと話をしていたこともあり、厳しくするより見守りながら、息子と自分の安全だけを考えていたといいます。

「離婚」を選ばない理由

ここまで、道代さんの口から一度も「別れたい」という言葉が出ないことに気が付いて、「離婚は考えなかったのですか」と尋ねると、

「何度も浮かびましたよ、もちろん」

と、大きく頷きます。

「私の収入だけでも息子は育てていけるし、こんな男のために自分の貯金を崩していくのも本当に嫌でした。

でも、息子が懐いている以上は引き離すのは良くないと、本当にそれだけで耐えましたね」

仮面夫婦であっても、息子にとってはふたりしかいない親であり、それぞれの親子関係までは破綻していない。

その事実が、夫への不満をどうにか堪える理由になり、また仕事が順調であることも、道代さんにとって大きな自信になっていました。

「家でのストレスを仕事で発散していたと言われても、仕方ないのですが」

それは夫への意趣返しでもあり、離婚しない代わりに仕事で成功を収めることで、夫を突き放し続けたのが、道代さんの現実です。