2 キャラクターの心情変化を演出する
マンガの世界では、タバコ=大人のシンボル=冷静 という図式が成り立つためか、愛煙家のキャラクターはクールな役まわりが目立つ。そこをうまく逆手にとり、キャラクターの感情を表現するのにもタバコは役立っている。
これが効果を発揮したのが、『ジョジョの奇妙な冒険』第2部のワンシーン。ある大切な仲間が死亡したさい、主人公(ジョジョ)の師匠であるリサリサが動揺のあまりタバコを逆さに持ってしまう。
それを弟子のジョジョから指摘されたリサリサは、いつもの沈着冷静なイメージを完全に失って泣き崩れる。ファンからの評価も高い、タバコがキーになった印象的なシーンだ。
灰が足の上に落ちているのに気づかない、手が震えてうまく火がつけられない、怒りのあまり根本から噛みちぎってしまうなど、タバコはいろいろなシーンで読者に“キャラクターの心情変化”を伝えてくれる。
3 キャラクター同士の親密度を表現する
愛煙家のキャラクターがふたり以上いる場合、タバコをうまく使うことでお互いの親密度を表すことができる。いわばタバコがコミュニケーションツールの役割を果たすのだ。
キャラクターの関係をタバコで完璧に描いたとして評価されているのは、人気ガンアクション作品『ブラックラグーン』のワンシーン。元商社マンで運び屋に転職したばかりの主人公ロックは、荒っぽい性格なヒロインのレヴィと当初は意見が合わず、殺し合う寸前にまで衝突する。
結局はお互いに本音をぶつけ合って和解するのだが、騒動直後の車内で2人が一服するさい、ロックがレヴィに自分の咥えたタバコから火を移してやるシーンがすばらしく官能的だった。
服を着たまま体の接触もなく、タバコを通じた短いやりとりだけで“マンガ史上屈指のラブシーン”を描いた作者の実力は見事。ちなみにこの直後から、ロックとレヴィは互いに信頼しあったベストパートナーとなり、まさにタバコの火移しシーンが物語のターニングポイントになったわけだ。
こうした表現は男女のキャラクターに限ったことではなく、たとえば劇場版アニメ『ルパン三世 ルパンVS複製人間』にも興味深いシーンがある。ルパン一行が敵の大型トレーラーに追いかけられている最中、運転席でタバコを欲しがるルパンに、助手席の次元大介が自分の咥えているタバコを吸わせるのだ。
たった10秒にも満たないシーンだが、生死をかけた極限状態でもタバコの“回し吸い”を自然とやってのける彼らからは、長年かけて築き上げた強い絆が感じられた。