海江田武次役の高橋光臣

 一橋慶喜(松田翔太)と決別し、いよいよ倒幕に向けて動き出した西郷吉之助(鈴木亮平)。その幼なじみで、若い頃から行動を共にしてきたのが、薩摩藩士・海江田武次だ。弟たちが桜田門外の変で命を落とし、薩英戦争の引き金となった生麦事件の当事者になるなど、時代の波に翻弄されつつ、波瀾(はらん)万丈の生涯を歩むこととなる。そんな海江田を人間味豊かに演じる高橋光臣が、これまでを振り返り、役に込めた思いを語った。

-海江田を演じる上で、意識したことは?

 最初のうちは、勢いを出そうと考えていました。精忠組の若々しさに加えて、後々日本を動かしていく人物の一人になることを考えたとき、そのエネルギー源になるものがほしかったので。さらに、尊王攘夷の過激な思想に染まっていく人物でもあるので、激しさも必要だろうと。そういうところから、やや思慮は浅いながらも、どんどん前に出て行くムードメーカーとして、明るく快活な感じに作っていこうと考えました。

-それは今も変わりませんか。

 今はだんだんそういう雰囲気ではなくなってきています。さらに、仲間の吉之助や大山(格之助/北村有起哉)たちがそれぞれ役職についてくると、場合によっては、今までのように「吉之助さぁ」、「大山さぁ」とは呼びにくくなる。その中で海江田も、明るさや快活な部分は影を潜め、少しずつ影のある重々しい人間になっていくのではないかと。

-役作りに役立ったエピソードなどはありますか。

 「翔ぶが如く」(90)など、海江田が登場する作品を見たとき、どちらかというと“陽”よりも“陰”という印象を受けました。その上で、どう役を作っていこうかと考えながら写真を見ていたら、笑いじわが多いことに気付いたんです。そこで「よく笑っていた人なんだろうな」とひらめき、そういう方向もありかな…と考え、それをベースに役作りをしました。さらに、桜田門外の変で命を落とした弟の代わりに婿養子に入って海江田家の名前を継いだ話など、情に厚い人間だったことをうかがわせる逸話も多かったので、そういう部分も取り入れています。

-海江田の吉之助に対する思いも、昔とは変わってきているのでしょうか。

 吉之助の場合、見ているものが大きすぎるので、海江田も含めて、周りの人間がついていけていない感じです。単に尊王攘夷とか、過激派、保守派みたいなことではなく、吉之助はもっと大きなものを見ている。だから、そこを理解しようとするのはなかなか難しい。現在の視点で当時を振り返ると、全て史実として残っているので、それぞれの考え方の違いは明確です。ただ、当時はみんな同じ時間の中で動いていたので、それぞれが何を考えていのるか、分かっているようで分かっていなかったと思うんです。見方を変えれば、尊王攘夷の過激派だった海江田の考え方も、吉之助に伝わっていたかどうか分かりません。

-同じく仲間だった大久保一蔵(瑛太)のことは、あまり快く思っていないようですね。

 単純に嫉妬ですよね。みんなが斉彬様(渡辺謙)という大きな存在を敬愛していた。だけど今は、その弟の久光(青木崇高)が、能力もないのに国父となって藩を動かしている。そのことに対して腹立たしさを覚えているにもかかわらず、取り入って、自分の思うように動かそうとする大久保のしたたかさ。自分にないそういう部分を尊敬しつつも、仲間だからこそ嫉妬している。そんなところから怒りが湧いてくるのではないかと。

-桜田門外の変で弟たちが亡くなったことは、海江田の生き方にどう影響しているのでしょうか。

 海江田の生涯をたどると、生きることに執着していたように見えます。ただ、桜田門外の変が起きるまでは、もっと過激な思想を持っていたと思うんです。それが、2人の弟が死んだことで、半歩後退した。その後、仲間たちが次々と命を落としていく中で、最後まで生き延びた海江田の人生観は、あそこで形成されたのではないかと。あの事件がなければ、寺田屋事件で亡くなった有馬(新七/増田修一朗)のように、もっと激しい行動に出ていてもおかしくなかった。それぐらい弟たちの死は、海江田にとって大きなものだったに違いありません。

-さらに、仲間だった有馬新七も寺田屋事件で命を落としました。

 人の生死というのは、大きなターニングポイントです。昔から一緒に歩んできた仲間が命を落とす。どこかで仕方ないと感じながらも、みんながそれぞれ、そこで死を意識した。明日、あさって、自分がそうなる可能性もある。だとしたら、これから何をしていけばいいのか。そういうふうに、自分の考え方や生き方をもう一度見詰め直すポイントになったのではないでしょうか。

-海江田は、薩英戦争の引き金となった生麦事件の当事者となりましたが、当時の海江田の心境は?

 外国人を斬ったらどんなことになるか、予想はしていたはず。それでもやったということの裏には、海江田なりの覚悟があったのではないかと。大名行列を乱した外国人の礼節のなさに対する怒り、日本を狙う外国に対する怒り、そんな外国に対して弱腰な幕府への怒り。そういったものに対して、「俺たち薩摩はいくらでも対抗してやるんだ」と。とはいえ、そんな外国の人間に対しても武士の情けを見せ、一対一の人間として、礼節を持ってとどめを刺した。だから、僕はあのとき、海江田の取った行動はカッコよかったと思っています。

-大河ドラマは1年という長期にわたる作品ですが、どんな印象をお持ちでしょうか。

 長い作品の場合、ずっと作り続けることはできないので、演じる側の人としての“なり”が、どこかで必ず出てきます。人によってそれが合う、合わない、はありますが、僕自身は長い作品の方が好みです。時間を掛ければ掛けるほど、役と重なることができますから。

-というと、これからますます高橋さんの味が出てくると?

 そうなるといいですね(笑)。僕も楽しみにしていた坂本龍馬(小栗旬)が登場して、ますます盛り上がってきました。今まで、見ている方に楽しんでもらえることを常に心掛けてきましたが、これからも頑張って海江田武次を演じていきます。

(取材・文/井上健一)