「AI」と「従来型」を徹底比較
リモートワークの普及で注目を集めているのが、録音と同時に自動で文字起こしができるAIボイスレコーダーです。一方、高音質の録音に定評のある従来型ICレコーダーも根強い人気を維持しています。実際に両方使ってみると、それぞれに明確な特徴と使い分けポイントがあることが分かりました。価格帯や機能、実際の使用感を徹底比較し、最適な選択肢をご提案します。
なぜ今ボイスレコーダーが注目されているのか?
コロナ禍で普及したリモートワークによって、音声認識製品市場は大幅な成長を記録しています。ある調査によると、Web会議システムに最も求められる機能として「議事録作成/文字起こし」が挙げられており、会議の記録方法に対するニーズが大きく変化していることが分かります。
しかし、調査結果や数字だけでは実際の便利さは伝わりません。筆者も長年ボイスレコーダーを活用していますが、その価値を実感したのは使い始めてからでした。
実体験から見えるボイスレコーダーの真価
筆者は普段から会議の内容や医師の説明を記録するためにボイスレコーダーを活用しています。録音した音声は文字起こしを行い、その後に要約を作成して保存するという流れで管理しています。
文字起こしをしておくことで、PCでの検索が可能になります。これにより、必要な情報を素早く見つけることができるようになります。音声を後から聞き返すのは時間もかかり大変ですが、文字データであれば「あの話題はどこで出たんだっけ?」と思った時でも、キーワード検索ですぐに該当箇所を特定できて便利です。
さらに、内容を箇条書きでまとめたメモを準備しておけば、会議全体の流れを短時間で把握できます。以前は一生懸命手書きでメモを取っていましたが、どうしても聞き逃してしまう部分がありました。
しかし録音と文字起こしを組み合わせるようになってから、そうした取りこぼしはほとんどなくなりました。重要な情報を確実に記録し、後から効率的に活用できるようになったのです。
AIボイスレコーダーの実力 実際に使って分かった便利さと限界
AIボイスレコーダーの代表格として注目されているのが、ChatGPT連携が話題の「PLAUD NOTE」です。実際に数週間使用してみると、単なる「録音+文字起こし」ではないことが分かってきました。
PLAUD NOTEを使い始めて最初に驚いたのは、その薄さです。クレジットカードほどのサイズで、手帳に挟んでもほとんど気になりません。MagSafe対応のケースを使えば、スマホの背面に貼り付けることができ、持ち運びの邪魔になりませんし、通話の録音も簡単にできるので、最小限の荷物で取材に行く時には最適です。
手間がかからないことにも驚きました。これまで1時間の会議を録音した場合、従来なら録音後に音声を聞き返しながら手作業で議事録を作成する必要があり、面倒に感じていました。
しかしPLAUD NOTEでは、録音終了後にスマホアプリへ音声データを転送すると、自動で文字起こしが始まります。さらにAIが「テーマ」「要点」「ハイライト」などの視点から要約を整理してくれるので、構成を考える時に便利です。「Ask AI」機能を使えば、追加でAIに質問や指示を出すこともでき、より詳しい分析や特定の観点からの整理も可能です。
特に印象的だったのは、マインドマップ生成機能です。会議の流れや関係性が図で整理されるため、後から振り返る際の理解度が格段に向上しました。ただ話しているだけの内容が、きちんと活用できる形になる便利さは、一度体験すると手放せません。
他社からもAIボイスレコーダーが販売されています。ソースネクスト製の「AutoMemo R」は、日本語に特化した強みを生かし、最新アップデートでさらに使いやすくなっています。話者分離機能の実用性が高く、複数人での会議でも「誰が何を言ったか」を自動で識別してくれます。
実際に使ってみると、細かい配慮が感じられました。日本語の敬語表現や専門用語の認識精度も高く、ビジネスで使っても安心できる仕上がりです。
ただ、これらのAIボイスレコーダーを使ってみて録音品質と文字起こし精度に課題を感じました。PLAUD NOTEは近距離での録音には適していますが、高音質な録音を求める場面では物足りなさを感じます。また、録音中であることが分かりにくく、きちんと録音できているか不安になることがありました。
文字起こしの精度も課題で、静かな会議室での1対1の打ち合わせなら高い精度が実現できますが、雑音の多い環境や複数人が同時に話す場面では、その精度が下がってしまいます。また、専門用語や固有名詞の認識は特に苦手で、後から手動で直す必要があることも珍しくありません。月額利用料が継続的にかかることも、長期的には無視できないコストです。
従来型ICレコーダー シンプルさと確実性の魅力
一方、従来型のICレコーダーを改めて使ってみると、そのシンプルさと確実性に安心感を覚えます。特に音質にこだわる場面では、まだまだ代わりの利かない存在です。筆者がよく使っているのは、OMデジタルソリューションズの「Voice-Trek VP-20」と「TASCAM DR-05X」です。
Voice-Trek VP-20は手軽に使うことができるICレコーダーです。スライド式のRECスイッチを動かすだけですぐに録音を開始できる操作性は、緊急時や咄嗟の場面で真価を発揮します。
実際、突然の会議や打ち合わせが発生した際、ポケットの中でサッと録音を開始できる手軽さに何度も助けられました。「ちょっと相談があるんだけど」といった急な話し合いでも、上着のポケットに入れたまま録音が開始できるので、重要な内容を聞き逃すことがありません。また、別売りのテレホンピックアップを使えば電話の録音もできるため、取材や商談の記録としても活用できます。
TASCAM DR-05Xの本格仕様
音質にこだわりたい場面では、TASCAM DR-05Xの実力が光ります。最大128GBのmicroSDXCカードに対応しているので、長時間の録音でも容量を気にする必要がありません。
実際に重要なインタビューで使用したところ、録音品質の高さを実感しました。USBケーブルでパソコンとつなげばデータ転送も簡単で、ここぞという録音では力強い味方になってくれます。特に高音質が求められる場面では、AIボイスレコーダーでは得られない満足度があります。
これらの従来型ICレコーダーでも録音後にAI文字起こしサービスを組み合わせれば、AIボイスレコーダーと同じような機能を実現できます。
筆者も実際にこの方法をよく活用しており、高音質で録音した音声データを「Notta」などのクラウドサービスにアップロードして文字起こしを行っています。さらにそのテキストデータをChatGPTなどの生成AIに読み込ませて、要約や概要メモを作成することも可能です。プロンプトを工夫することで、独自の出力形式にカスタマイズできるのも大きなポイントです。
確かに手間は増えて面倒に感じることもありますが、この方法なら文字起こしサービスを自由に選べるし、後処理の幅も圧倒的に広がります。医療分野の専門用語に強いサービス、法律用語の認識精度が高いサービスなど、録音内容に応じてサービスを使い分けられるのは大きなメリットです。
コスト重視なら「スマホアプリ」という選択肢も
さらにコストを抑えたい場合は、スマホの標準ボイスレコーダーアプリや専用アプリを活用する方法もあります。最近のスマホアプリには録音から文字起こしまで対応しているものも多く、基本機能であれば無料で利用できるケースがほとんどです。
ただし、バッテリーが減りやすい、着信で録音が中断されるリスク、長時間録音時の容量不足などの課題があるため、重要な会議では専用機器との使い分けが現実的でしょう。
AIを組み合わせることのメリット
従来の会議では、メモを取ることに集中するあまり、議論の内容に十分集中できないという悩みがありました。しかし、録音していることが分かっていると、メモは最低限に留めて、議論そのものに集中できるようになります。結果として、会議中はより積極的に発言し、質問もしやすくなりました。会議後に文字起こしデータを見返すことで、自分では気づかなかった重要なポイントを発見することも多くあります。
義父の通院に付き添う際や、サービス付き高齢者向け住宅のスタッフとの話し合いをする時も、録音を活用しています。医師の説明は専門用語が多く、その場では理解したつもりでも後から疑問に思うことがよくあります。介護に関する要望や相談事項も見落としたくない重要な内容です。録音していることで、家族間での情報共有や、後から内容を振り返る際にも正確な情報を確認できるようになりました。
複数の家族が関わる介護の場面では、「あの時何と言われたか」を正確に共有できることがとても重要です。検査結果の説明や治療方針の変更などは、後から「あれはどういう意味だったかな」と不安になることがありましたが、文字起こしデータがあることで、いつでも確認できる安心感があります。
情報を探す手間が大幅に減ったメリットも感じています。従来は「あの件について話したのはいつだっけ?」と過去のメモを延々と探していましたが、今では文字起こしデータをキーワード検索するだけで、すぐに該当箇所を見つけられます。この変化によって、情報の整理や資料作成にかかる時間が大幅に短縮され、クリエイティブな作業に時間を割けるようになりました。
使用シーン別の最適解
毎日会議がある管理職の方であれば、AIボイスレコーダーの導入効果は絶大です。日常的に会議が多く、議事録作成が業務の大きな負担になっているような状況では、PLAUD NOTEのマインドマップ生成機能が従来では実現できない価値を提供してくれます。録音ボタンを押すだけで、会議終了後には整理された議事録と視覚的なマインドマップが手に入る体験は、一度味わうと手放せなくなるでしょう。月額コストを考慮しても、時間短縮の効果を考えれば十分に元は取れる投資といえます。
一方、ジャーナリストや研究者のように録音の音質が重要で、文字起こしの精度にもこだわりたい方には、高音質で録音が可能な従来型に専門性の高いAI文字起こしサービスを組み合わせる方法がベストです。手間は増えますが、用途に応じて最適なツールを選択できる柔軟性があります。重要なインタビューの場合、音声データそのものが資料としての価値を持つため、高音質での保存は必須となるからです。
録音頻度がそれほど高くなく、文字起こしも手作業で問題ない方であれば、従来型ICレコーダーのシンプルさと確実性が魅力的です。Voice-Trek VP-20のような製品は、ポケットからサッと取り出してすぐに録音開始できる手軽さがあり、いざという時に頼りになります。コストを抑えながらも確実な録音が可能な選択肢といえるでしょう。
使ってみて初めて分かる
実際に長期間ボイスレコーダーを活用してみて分かったのは、その価値は「使ってみて初めて分かる」ということです。調査結果や機能一覧を見ただけでは、実際の便利さは伝わりません。
AIボイスレコーダーの魅力は、単純な録音を超えた「情報の構造化」にあります。ただ話しているだけの内容が、きちんと活用できる形になる便利さは確実にあります。一方、録音品質の限界や録音状況の確認しづらさ、継続的な月額コストは現実的な課題です。
従来型ICレコーダーは、シンプルながら確実性と経済性を両立している安心感があります。音質を重視する用途では、まだまだ代わりの利かない存在です。
それぞれの特徴を整理すると、AIボイスレコーダーは「ワンストップで作業完了」という手軽さが最大の魅力です。一方、従来型ICレコーダー+文字起こしサービスの組み合わせは「手間はかかるが自由度が高い」という特徴があります。
重要なのは、自分の使い方を具体的にイメージすることです。会議の議事録作成が主な用途なのか、インタビューや取材での高音質録音が必要なのか、それとも日常的な記録としてのシンプルな録音で十分なのか。
一度、録音と文字起こしの組み合わせを使い始めると、その便利さから手放せなくなります。聞き逃しがなくなり、情報を探す手間が大幅に減り、結果として生産性とタイムパフォーマンスが劇的に改善されるからです。コストや作業効率、カスタマイズの幅などを総合的に検討して、まずは自分に合った方法でボイスレコーダーの活用を始めてみることをおすすめします。(マイカ・秋葉けんた)







